濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
大晦日RIZINで“MMAデビュー”3選手の明暗はなぜ分かれた? 皇治が劇的勝利し、安保と芦澤が“完敗”した理由「ナメたらダメっす」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2024/01/05 11:02
MMAデビューとなった三浦孝太戦に勝利した皇治(左)
サッカーボールキックは「練習してました」
一方の皇治は、勝つためにやるべきことを徹底した。組み技を嫌ってスタンドの打撃でダメージを与える。グラウンドで上になったら一気にパウンドを連打。フィニッシュもパウンドから立ち上がってのサッカーボールキックだ。公開練習で予告していた技でもある。
「サッカーボールキックはたまたま。やっぱカリスマやな。モテてしゃあない(笑)。いやすいません、調子乗ってますね。練習してました、あれはホンマに」
タックルを潰しながら打撃で勝つ。そのプランの中にサッカーボールキックも含まれていたということだ。三浦が拳を負傷したことについては、こう語った。
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「俺のこと殴ったら折れるんですよ。たけぽん(武尊)もそうだったでしょ。俺の頭は最強なんすよ」
攻撃の際に頭から突っ込む癖があり、バッティングが問題になったこともある皇治の言葉だけに“自虐”な感じもするが、ともあれMMAファイター・皇治は最高のスタートを切った。
MMAデビューの安保、芦澤が“完敗”した理由
同じ大晦日大会でMMAデビュー戦を行なったキックボクシングのトップ選手は他にもいる。安保瑠輝也と芦澤竜誠だ。皇治とは対照的に、どちらも完敗。安保は久保優太にリアネイキッドチョークを極められ、芦澤は太田忍のダースチョークで動きが止まったところにパウンド連打で失神。立ち技での活躍ぶりと比較して“醜態”と捉えた者もいるだろう。
だが、2人の負けはごく当たり前の結果だった。久保は安保と同じ元K-1ファイターだが、2021年9月にMMAデビュー。今回が4戦目であり、練習期間は2年以上になる。安保はといえば、今大会のマッチメイクが進む中で急きょ決定したMMA挑戦だった。練習は20日ほどしかしていない。久保は言う。
「僕だってMMAを中途半端にやってきたわけじゃない。立ち技(競技)を捨ててきてるんですから。練習でボコボコにされて(グラウンドで)漬けられながら頑張ってきた」
安保は戦前、リアネイキッドチョークで勝つと予告。しかしその技で勝ったのは久保だった。
「そう言われた時から“僕からバック取れるわけない”と思ってましたよ」
“格差マッチ”が生み出すもの
芦澤もファーストアタックのタックルでテイクダウンを許し、そのまま一方的な展開となった。太田はレスリングの五輪メダリストでありMMAでもRIZINのトップ戦線に食い込む存在。2024年はベルトを狙う。そういう選手を相手に選んだのは芦澤自身だった。
攻防の中で、芦澤が真剣に練習してきたことは伝わったと太田。とはいえ技術にも経験にも差がありすぎた。日本では、時折こういう“格差マッチ”が組まれることがある。負けてもともと、勝ったら破格の飛び級になるようなマッチメイクだ。そこから、たとえば藤田和之を下したミルコ・クロコップのような成功例も出てくる。