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“女子ハードル界のニューヒロイン”田中佑美25歳が続ける成長…パリ五輪“代表争い”への本音「陸上のいいところは他人が関係ないことですから」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byL)AFLO、R)Takuya Sugiyama
posted2024/01/10 11:02
世界選手権出場、アジア大会で3位に入るなど、昨年躍進を遂げたハードラー田中佑美
理想のハードリングとは
世界選手権やアジア大会を終えて、自らの課題もより鮮明に見えるようになった。冬季では「筋持久力」と「出力」の向上に取り組む予定だ。
「まずは100mをしっかり走れるようになることですね。私は後半に伸びてくるタイプですが、それはうまく加速できているからであって、後半まで身体が持っているかと言われたらそうではない。10台目を越えてからゴールまでの間にたくさんの人に抜かされてきた人生ですから(笑)。最後までしっかり走りきれるように、冬季の間に仕込んでいこうと考えています。
もう一つは海外選手との出力の差ですね。でも筋肉を大きくすると言っても、それに動きがついてこなければあまり意味がないので、自分の特性や走りたいイメージみたいなものを理解しながら、パワーを上げていきたいと思っています」
では、田中の“走りたいイメージ”、理想のハードリングとはどんなものなのだろうか。彼女は「今目指しているのは『ハードルを跳ばないハードリング』です」と語り、説明を付け加える。
「今まではどちらかといえばハードルの高さやインターバルに合わせたハードリングをしていたのですが、そうではなくて、ハードルに合わせずに自分の力が一番発揮できるタイミングで動く、その下にハードルがあればいいねというイメージです。ハードルを越えるためのハードリングではなく、完成した動きを繰り返す中にハードルがあって、ぐんぐん加速していく感じが出せたらいいなというのが理想ですね」
「陸上のいいところは他人が関係ないことですから」
国内では今季だけで田中を含めた3選手が12秒台に突入。来年のパリ五輪にむけては3枠の代表権を巡る争いがますます熾烈を極めるだろう。12秒台ハードラーによる争いが注目されるが、当事者の田中は冷静に現況を見つめている。
「もはや12秒台の壁はかなり薄くなっていますし、13秒0台で走る実力がある選手はタイミングさえ恵まれれば、いつでも12秒台を出せるものだと捉えています。今は12秒台の選手とそれ以外という感じで見られていますが、あまりその差は関係なく、もっと激しくなるでしょうね」
田中は自ら語ったそんな状況について、「嫌だなあ、緊張するなあって思います(笑)」と率直にこぼすも、凛とした表情でこう言葉を続ける。
「でも人生にそう何回もあることではないですし、どんな状況でもそのときに出せるベストは尽くしたと晴れやかな気持ちで終わりたいですね。陸上のいいところは他人が関係ないことですから、あまり周りは気にせずに、しっかりと自分のやるべきことをしていこうと思います」
柔らかな口調の中にも揺るぎない芯を感じさせる田中。濃密な経験を積んだニューヒロインはそれらを糧に、自らと向き合いながら、さらに成長を重ねていくだろう。
《インタビュー第1回、第2回も公開中です》