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「(抗議した中国選手を)責める雰囲気はなかった」アジア大会“あの不正スタート”レースを戦った田中佑美が明かす舞台裏「結局失格になったので…」

posted2024/01/10 11:00

 
「(抗議した中国選手を)責める雰囲気はなかった」アジア大会“あの不正スタート”レースを戦った田中佑美が明かす舞台裏「結局失格になったので…」<Number Web> photograph by AFLO

2023年のアジア大会に出場した田中佑美

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荘司結有

荘司結有Yu Shoji

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AFLO

2023年10月、中国・杭州で開催されたアジア大会の女子100mハードルで、銅メダルを獲得した田中佑美(25歳)。最初のスタートでは優勝候補の中国代表・呉艶妮(ウー・ヤニ)が明らかなフライングを犯すも、共に失格を言い渡された選手との猛抗議により一転、再出走が認められる異例の事態に。最終的に、2着だった呉が失格となり、4着の田中が繰り上げで銅メダルを手にした。

この不正スタートを巡るドタバタ劇には様々な声が上がったが、レースを共にした田中はどう受け止めているのだろうか。繰り上げで銅メダルが決まったときの心境や、今回の対応に対する率直な思い、レース後の呉との意外なやり取りなど、知られざる舞台裏について聞いた。《NumberWebインタビュー全3回の初回/#2#3に続く》

◆◆◆

 女子100mハードルの決勝。ライトに照らされたトラックに立つ田中の表情は、緊張感より、これから始まるレースへの期待で和らいでいた。

「どの大会でも予選や準決勝は『通るかな』という不安が先に来るのですが、決勝に関しては楽しもうという気持ちが前面に出ていました。特にアジア大会は、プロジェクションマッピングとかで『自分かっこいい!』と気持ちを盛り上げてくれる雰囲気だったので、その流れに乗ってワクワクした気持ちでスタートラインに立っていました」

話題を集めた「フライング→まさかの再スタート」

 アクシデントが起きたのはその直後。優勝候補筆頭だった呉艶妮(中国)が、明らかなフライングを犯したのだ。号砲が鳴る前に動いた呉と、それにつられたジョティ・ヤラジ(インド)に対して、共に不正スタートによる失格が宣告された。

 しかし、ヤラジが審判に抗議を始めると、フライング直後は自身の非を認めるように、観客にお詫びする仕草を見せていた呉もその抗議に加わった。長時間の猛抗議の末、ふたりとも不正スタートが取り消されて再スタートすることになる。

 呉は今季大ブレイクした期待の新人。6月の中国の全国選手権で優勝を飾り、アジア大会の出場権を獲得。続く8月のFISUワールドユニバーシティゲームズで銀メダルを獲得し、12秒76の自己記録でパリ五輪代表の座を射止めた。そのルックスや派手なパフォーマンスも話題となり、中国では“ハードルの女神”と呼ばれる。

現場にいた田中は、騒動をどう感じていたのか?

 開催国で絶大な人気を誇る呉を走らせるという異例の判断に、レースを見守る観衆の間に動揺が走ったが、田中はその場を冷静に俯瞰していた。

「彼女たちが走ろうが走るまいが、私個人のレースにはある意味、関係のないことなので『大変そうやなあ』という気持ちだけでした。あそこまで待たされることはなかなかありませんが、国内でもフライングや注意はよくあることなので、それと同じように対応しようと、次のスタートに向けて集中を高めていたと思います」

【次ページ】 「呉選手を責め立てるような雰囲気はなかったです」

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