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「(内容は)ちょっと言えへんけど…」坂本花織を変えた“コーチとの大喧嘩”…全日本選手権3連覇の裏で日本のエースが泣いていた理由
posted2023/12/28 17:04
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
フィニッシュすると左こぶしを振り下ろし、右こぶしで氷に触れた。
12月24日、フィギュアスケートの全日本選手権最終日。大会3連覇を決めた坂本花織は解放されたような笑顔をみせた。
今シーズンは出場するすべての大会で優勝。グランプリファイナルでは3度目の出場で初優勝を果たした。
充実の一途にあるシーズン前半の締めくくりである全日本選手権では、3連覇を期待される立ち位置で「本命」とされていた。
それに応えるようにショートプログラムはただ一人70点台の78.78点、フリーでもただ一人150点台の154.34点、合計では233.12点と2位に24点弱の大差をつけて優勝した。結果だけ見れば完勝と言ってよかった。でも万全な状態にはない中で大会を迎えていた。
SP首位も…翌日“まさかの涙”の理由
2週間前のグランプリファイナル後、体調を崩し1日中寝込んだ日もあったという。
「調子もコンディションも全部落ちてしまったんですけど、試合までに完全復活ができたら」
ショートの前々日の言葉も、万全ではないことを示していた。
それでもショートで圧倒的な1位に立ったが、困難はその後も訪れた。
12月24日、フリー当日の午前練習ではジャンプで苦戦した。曲をかけて滑ったときには冒頭のダブルアクセルを着氷したが、トリプルルッツは転倒。コンビネーションジャンプ1つ目のトリプルフリップが2回転にとどまった。坂本は涙を流した。練習の時のことをこう振り返る。
「息がすぐ上がるくらい緊張していました」
中野園子コーチも不調を感じていた。
「あまりに昨日から緊張していて、ぜんぜんジャンプが決まらなかったり、ばらばらで精神的に安定しなかったり」
その理由をこう語った。
「若い子たちの頑張りが、かなり重圧になって苦しかったようです」