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箱根駅伝“山上りの5区”は実際どれほど過酷なのか? 元陸上部のお笑い芸人が20.8kmを歩いてみた「股関節がヤバい」「壁のような急坂が…」 

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松下慎平

松下慎平Shimpei Matsushita

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posted2024/01/02 11:10

箱根駅伝“山上りの5区”は実際どれほど過酷なのか? 元陸上部のお笑い芸人が20.8kmを歩いてみた「股関節がヤバい」「壁のような急坂が…」<Number Web> photograph by Number Web

箱根駅伝5区の名所のひとつ・大平台のヘアピンカーブで。元長距離ランナーのお笑い芸人・松下慎平が「山上り区間」の踏破に挑んだ

 車両の前で何枚か珍妙なポージングを交えスタート前の写真を撮ったのだが、今思い返すと、そんな余裕があったのは“本格的な上り”が始まるまでの短い時間だけであった。

 まずは早川に沿って約3km先の箱根湯本駅を目指す。道中、コンビニのおにぎりで栄養を補給しておく。自然に囲まれた地形を脇目になだらかな上りが続くが、視界も開けているため気持ちがいい。陽があたり、風も穏やかだ。「昼には美味しい蕎麦でも食べましょう」「温泉入りたいっすねえ」などと会話を楽しみながら先を目指す(結局、我々はこの日蕎麦を食べることもなければ、温泉に浸かることもなかった)。

 箱根湯本にさしかかり、土産屋や飲食店を横目に国道1号を進む。駅から少し離れると、左手に函嶺洞門が現れる。ご存じの方も多いだろうが、この函嶺洞門のトンネルはかつて5区のルートだった。老朽化とバイパスの整備によって2014年に通行禁止となったが、今も国の重要文化財としてその姿をとどめている。数々のドラマを見届けてきた物言わぬ歴史の証人を背に、徐々に傾斜を増す山道へと歩みを進める。

真っ先に悲鳴を上げたのは“股関節”だった

 130年の歴史を持つ“文化財の宿”福住楼を過ぎると、いよいよ本格的な山道が始まる。歩道が心もとない幅になり、気温がぐっと下がるのを実感する。まったく終わりが見えない、生活感のない山道――もし自分がランナーだったらと想像すると、不安と孤独感に押しつぶされそうな風景だ。

 この地点でまだ4km程度だったが、早くも体に異変が表れ始めた。想定では最初に限界を迎えるのはどこかしらの筋肉だと考えていたが、まず悲鳴を上げたのは関節、それも股関節であった。普段の生活では直面することのない坂道を上り続けるという運動に、骨盤と大腿骨の連結部が“痛み”という異常信号を発している。山道を上るのには普通の長距離ランナーとは違う資質が必要とは聞いていたが、その一つは股関節の柔軟性とタフネスなのかもしれない。

 私がこの事実を伝えるか迷っていると、先を歩くAが振り返って言った。

「股関節がヤバいです……」

 どうやら彼にも山上りの資質は備わっていなかったらしい。

 一気にペースダウンをしたものの、なんとか名所の一つである大平台のヘアピンカーブ(7.1km地点)に到達し、写真撮影も兼ねて小休憩をとることにした。

【次ページ】 中間地点・宮ノ下で心を折る「壁のような急坂」

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