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「駅伝と司法試験、どっちが大変と聞かれることも多いですが…」中大で箱根駅伝3度出場→弁護士になった男が語る“スポーツ選手とキャリア”の問題点
text by
栗原正夫Masao Kurihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/12/24 17:03
全国高校駅伝3連覇後、中大では箱根駅伝に3度出場した梁瀬峰史さん。現在は千代田区内の弁護士事務所に勤務している
「日々、反復継続して勉強なりを行なうことに抵抗がなく、それほど苦にならなかったのは長距離競技での経験が活きているかもしれません。また、中学時代は全国高校駅伝や箱根駅伝など大きな大会に出場できるなど想像もしていませんでした。しかし、結果的にそうした世界を見ることができた経験を経て、自分自身で未知の出来事に取り組む心理的なハードルが下がったのはよかったのかもしれません」
弁護士になってからは忙しさもあってか、「すっかり走ることからは遠ざかってしまった」と話す梁瀬さん。勤務する事務所は市民ランナーの聖地・皇居にほど近いが、なかなか足が向かないという。
失礼を承知でいえば、現在の弁護士然としたスーツ姿からは、かつて箱根路を3度も走ったランナーだとはなかなか想像しがたい。
「そこそこの頻度で『本当に箱根を走ったの?』と聞かれます。いまは本気で走ろうと思うこともなく、多分2キロ走るので精一杯じゃないですかね(笑)。弁護士のなかでも走っている先生は多く、駅伝大会もあります。でも、こんな状況なので経歴は積極的には言わず影を潜めています。まあ私の箱根の記録をいまに置き換えればメンバーにも入れないでしょうし、偉そうに語れることもないですしね。もちろん過去を隠しているというわけではなく、話題に上ればお話はさせていただいています」
現在は主に企業法務の案件に従事
現在の事務所では主に企業法務に従事している。
「元々は身近で困っている人を助けるとか、市井の案件、いわゆる“町弁”のような形で頑張りたいと思っていました。町弁に対する尊敬は今も強いですが、今は継続的にお付き合いいただいている企業案件に注力すべき時期だと捉えています。また、企業法務に限った話ではないのですが、弁護士業界の諸先輩方はバックボーンなどにとらわれず、意欲ある者を歓迎してくださり、先端的な勉強会にも参加できたり、日々刺激的です。
身近な人からの相談もあります。ただ、関係性が近い人のプライベートな話は私自身が聞かない方がいいことも多いと思いますので、そういう場合は得意な事務所などを紹介させてもらっています」
梁瀬さん以降、箱根を走ったランナーが弁護士になったという例は聞かない。
他競技を含め、スポーツエリートはどうしても学生時代、競技に集中し過ぎる傾向があり、卒業後の進路の視野を広げることが難しくなっているのが現実だ。