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スポーツ百珍BACK NUMBER
「将棋は自分で完結、お笑いは他者の評価」「ネタ作りは研究以上にキツい」けど…異色講師・栗尾軍馬34歳が感じた“盤上と芸人の共通点”
posted2023/12/25 17:01
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by
Shigeki Yamamoto
2023年のM-1チャンピオンは令和ロマンに決まった。決勝や敗者復活戦に現れたコンビのストーリーを見ていると……様々なバックボーンを持つ人々が、お笑いに夢を懸けていることにあらためて気づかされる。
「NSCに入ると、大げさではなく全種類の人が集まっているんじゃないか、って思ったくらいでした。将棋の奨励会は、割と似ているタイプが多いですから」
こう話すのは栗尾軍馬さん。棋士を目指した10代~20代前半をすごしたのち、吉本興業のお笑い芸人養成学校「NSC」に入学。2年ほどお笑い芸人として日々を過ごすとともに、それと並行して受け持っていた将棋講師を今も続けている。
「奨励会のちNSCって〈どれだけ下積みが好きなんだよ!〉ってツッコまれるかもしれませんね(笑)」
子供のころから仲の良い俳優からの〈芸人、やれよ〉
栗尾が奨励会時代、後のタイトル経験者となる広瀬章人九段や永瀬拓矢九段らの凄みを体感してきたのは、前編で記した通り。奨励会を退会後、「自分の好きなことをやる」と選択肢としたのは、公認会計士とお笑い芸人。対照的に見える職種だが、本人は“転身”へのプロセスをこのように振り返る。
「どっちにしようか迷っている時に、子供の頃からずっと仲が良い友達の俳優がいるんです。彼に聞くと〈それ、ずるいね〉と言われたんです。〈どうせ背中を押してもらいたいだけじゃん。芸人、やれよ〉といった感じで。その言葉で決意しましたね」
栗尾が「彼」と呼んだのは、俳優を生業とする若葉竜也。奇しくも2020年、AI将棋を題材にした『AWAKE』という映画に出演することになる友人の言葉で、本格的にお笑いの道を志すようになった。
ただ、奨励会に通っている頃から「中学校の友達からお笑い芸人の誘いを受けていたんです」と語るように、ティーンエイジャーの頃から栗尾は将棋と同様、お笑いに親しんできた。物心ついたときに『ダウンタウンのごっつええ感じ』を見始めて以降、トータルテンボス、タカアンドトシ、NON STYLE……と第一線で活躍する芸人を楽しんで見てきた背景があった。
もしかしたら根本は目立ちたがり屋だったのかも
それもあって「芸人として売れるチャンスが何回かくると思う」という若葉の言葉に後押されて、NSCでの1年間を経てお笑い芸人となる。