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防御率16点台から新人王&MVPへ…阪神・村上頌樹の人生を劇的に変えたエース青柳晃洋のひと言「左足を着いてから…それだけでいいんだよ」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNaohiro Kurashina
posted2023/12/08 17:00
今シーズン10勝をあげリーグMVPと新人王に輝いた阪神・村上頌樹(25歳)
《70~80》
これは毎試合、村上が大事にしている数字である。「初球ストライク率を意識しているんです」。実際、この試合の村上は4回裏の打者3人にすべてストライクから入った。7回まで打者のべ23人に対して、20人に初球ストライク。87%の高水準だった。
「いつも登板後、データ担当者と話をしていて、調子が悪い時は50%くらいです。ストライクのカウントが進むにつれて打者の打率は下がりますからね」
先手を奪うスタイルはバッテリーを組む坂本誠志郎の助言を生かして確立した。
「初球はフラットな状態でフルスイングできる。でも、0-1ならフルスイングしにくい。0-2は三振したくないし、当てに行ったりする。初球を強く振れるヤツは、逆に1-0ならもっと振れるやろ」
村上は坂本の話に深く頷いた。
4回の3者凡退がリズムを生み、5回表、山本を崩す4点の猛攻となった。その裏は1死一、二塁でマーウィン・ゴンザレスが粘る中、笑みすら浮かべた。カーブなども交え、周到な10球で二飛に詰まらせた。
ピンチがまるでピンチではなかった。
それは村上が追い求めてきた姿だった。
「あの試合は、自分の理想の形の展開で進められたのでよかったと思います」
人生を変えた“ゼロコンマ数秒”の動作
村上は親近感を漂わせる投手である。
身長は175cm。マウンドにそびえ立つ巨漢ではなく、雑踏にすぐに溶け込んでしまうような体格だ。インタビューの声も大きくなくて、強く自己主張しない。
新人の2年前は一軍戦2試合で防御率16.88。球を置きにいく姿は、何かを恐れているように映った。昨年は一軍昇格すらできず、大卒のドラフト5位であることを考えれば、今年は瀬戸際といっていい。
その人生をわずか1年で劇的に変えたのは、1秒にも満たない、わずかゼロコンマ数秒の動作だった。
今年1月、青柳晃洋に誘われた静岡県での自主トレが転機だった。'21年に投手タイトル2冠、昨季も3冠を獲得しているエースの青柳からある時、こんなアドバイスをもらった。
「左足を着いてから投げる。それだけでいいんだよ」
村上にとって、今までにはない発想だった。これまでは左足が着地した時、すでに右半身も打者に向いていた。右腕を強く振ることばかり考えていたからだ。左肩の開きが早くなり、球に力は伝わらず、打者からは球が見やすくなる。すぐに肩や肘が張るのが悪癖の証拠だった。
そんな投球を一変させたのが、青柳のひと言である。
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