日本シリーズ第7戦の行方を祈るように見る男がいた。阪神の村上頌樹は前夜、本来の投球をできず、オリックスのエース山本由伸に完敗した。自ら日本一に導けず、責任を痛切に感じていた。ブレークしたシーズンの最後に悔しさが残った。
1勝2敗。
今季、山本との直接対決の結果である。「1敗の差」に何を感じ取ったのか。
そう問うと村上は、すぐに6月の初対戦での驚きを口にした。試合中、キャッチボールをしながら山本を見ていたという。
「ピンチの方が、こっちに点、入らんやん」
山本は試合全体を俯瞰して、強弱をつけて投げていた。その日は8回11奪三振無失点。村上も8回2失点と健闘したが、さらに上をいく快投を見せつけられた。
「ランナーがいなくて、力を入れていない時しか点が入らないんじゃないかと思いました。ギアを上げた時、さっき投げていた球と全然、速さもキレも違う。『こういうピッチャーが勝てるんや』と感じました」
村上が大事にしている初球ストライク率「70~80」
日本シリーズの第1戦は6月の敗北以来の対決となった。シーズン10勝を達成した村上もまた、この時にはもう、冷静に試合の流れを読めるようになり、堂々と渡り合っていた。
序盤から山本と交互に「0」を並べていった。村上がギアを上げたのは4回である。
「4回表にチャンスで点を取れなくて『嫌な流れだな』と感じました。『4回裏は大事』だと。3者凡退にできたから、直後の5回に点が入ったんじゃないかと思います」
4回表は無死一、二塁の絶好機で中軸が倒れ、先制できなかった。その裏、相手は1番からの好打順だったが、小気味よくアウト3つを重ねた。わずか10球での攻守交代は、制球に秀でた村上の本領だった。
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