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「なぜ簡単に海外移籍させるのか?」来日18年ミシャ監督が“Jリーグの常識”に疑問「ミトマは1年目から…」「ヨーロッパなら数十億円が動く」
text by
佐藤景Kei Sato
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/12/01 11:04
海外でプレーすることが当たり前になった今、改めて「過去の失敗」にも目を向けるべきだと語るミハイロ・ペトロヴィッチ(66歳)
「なぜ日本は監督の手腕に順位逆転の可能性が残されていると言うのか、説明しよう。日本人の選手は大体、Jリーグの下部組織や高校の部活、大学のサッカー部を経由して、ある程度指導を受けた状態でプロの世界に入ってくる。中には例外的な存在もいるが、その意味で言えば、比較的平均的で同じようなレベルの選手が多い。
一方でヨーロッパのクラブは世界中にスカウト網があり、才能ある若い選手が世界各地からやってくる。異なる環境で育ったという意味で、初めから戦力差が生じやすい。つまり、より良い戦力を整えられる予算を持っているチームが有利になる。監督が手腕を発揮する以前の、準備の段階が占める割合が大きいということだ」
スタートラインに立った時点の差が小さければ小さいほど、監督の手腕が成績に反映されやすいというのは確かにそうだろう。その上で長く1チームで監督を務めることができれば、チーム力を積み上げやすい。
とはいえ、クラブの規模によるものの、札幌においては選手が引き抜かれることが常で、この積み上げが簡単ではない。世界に張り巡らされたスカウト網の中には当然日本も入り、ちょっと好調な時期を過ごすと、すぐに選手が海外移籍してしまう。
特に札幌はここ数年、移籍市場で狩り場になってきた。
「武蔵とロペスがいれば25点取っていた」
「例を挙げればキリがない。私が札幌に来た2018シーズンはレンタル中の三好康児が非常に良いプレーをしたが、翌年は横浜FMに移っていった。そのあとは鈴木武蔵、アンデルソン・ロペス、進藤亮佑、チャナティップ、高嶺朋樹、この夏には金子拓郎が海外へ移籍した。もし彼らがチームに残っていて今の選手たちと切磋琢磨していたら、また違った結果を得ていたと思う。ただ、他のクラブがわれわれよりも多いサラリーを提示してきた中で、その選手たちを維持することは難しい。そこで何が起こるかといえば、また次のシーズンにはゼロに近い状態でチームを作り直さなければいけなくなるのだ。積み上げを生かせない点が、われわれのような規模のクラブの難しさと言える。
鈴木武蔵とアンデルソン・ロペスがいれば、2人で25ゴールは確実に取っていたと思うが、そういう重要な存在が一気に抜かれたら、たとえレアル・マドリーでも好調を維持できないだろう。結果を出すためには資金力もやはり無視できないが、今後ますます、その傾向は強まるかもしれない」
今季の札幌がリーグ最多得点を記録したシーズン前半の好調を維持できず、後半に失速したことはチャンスメーカーとしてチームを牽引していた金子拓郎が夏に移籍したことと無関係ではないだろう。「小柏剛、田中駿汰、中村桐耶らも、じきに目をつけられる」と、ミシャは胸の内を明かしたが、同時に現在の日本人選手の移籍傾向について警鐘を鳴らした。