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「なぜ簡単に海外移籍させるのか?」来日18年ミシャ監督が“Jリーグの常識”に疑問「ミトマは1年目から…」「ヨーロッパなら数十億円が動く」
text by
佐藤景Kei Sato
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/12/01 11:04
海外でプレーすることが当たり前になった今、改めて「過去の失敗」にも目を向けるべきだと語るミハイロ・ペトロヴィッチ(66歳)
「どんなに才能があっても、移籍先の国の環境が合わなければ活躍することはできない。全く逆のケースを見れば、それは明らかだ。素晴らしい才能を持つと言われている選手が日本に来たけれども、環境が合わずに活躍できなかった例はいくらでもある。そもそもメンタリティーが日本と海外では全く違う。特にヨーロッパではサッカーが人々の生活の中にあって、日本では考えられないような批判に晒されることも多い。週末の試合でプレーが悪ければ、週明けのトレーニングにサポーターがやってきて罵られるのだ。ただそれが日常であって、そういう環境に耐えられるメンタリティーが必要になる」
最近では高校卒業のタイミングで海を渡るケースも増えてきた。できる限り早く海外移籍した方がいいという考え方もある。そのことについても、ヨーロッパの事情と日本の事情に明るい指揮官は異を唱えた。
「2年間はJリーグでプレーした方がいい」
「私の考えではユース、あるいは高卒の選手であるならば、2年間はJリーグでコンスタントにプレーした方がいい。その中で才能があってヨーロッパにチャレンジできるオファーをもらえるのであれば、ベルギーとかオランダとかスイスとか、そういった国のリーグをステップアップとして選択するのがいいのではないか。そこにはオーガナイズされ、しっかりサッカーをできる環境があるからだ。イングランドやドイツ、スペイン、イタリアでかかるようなプレッシャーがない中で、ヨーロッパの第一歩を踏み出すことができるだろう。そこで慣れて成長してステップアップすればいい。例えば三笘薫は、素晴らしい才能があり、大卒1年目から川崎でしっかりと結果を残して移籍したから今の活躍があると思う。その彼でもベルギーという1ステップを踏んでプレミアリーグに行った。ステップアップリーグと言われているところにまず移籍するのがいいと個人的には思っている。
Jリーグと、オランダ、ベルギー、スイスの国内リーグはある程度レベルが近いと思う。もちろんPSVやアヤックスなどのトップクラブは違うだろうが、リーグ全体のレベルとしてはそれほど大きな違いはない。それらのリーグはヨーロッパのスカウトたちが常に見ているというメリットもある。
海外だからどこでもいいというわけではない。以前、タクマ(荒野拓馬)にポーランドからオファーが来たが、そこは絶対に行くべきではないと言った。この夏、タク(金子拓郎)がディナモ・ザグレブに行ったが、クロアチアのビッグクラブではあるものの、サッカーの質やサポーター、国の状況も含めて『決していい環境ではない』ということは伝えた。ディナモ・ザグレブもハイデュク・スプリトも旧ユーゴの中ではビッグクラブだが、メンタリティーもカルチャーも全く違うし、その中で日本人選手が馴染んで活躍するのは決して簡単ではないからだ。それでも行くなら覚悟の上ということで成功を望めるかもしれないが」