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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
日本人のコワい体験談「フランスの鉄道で強盗被害に…」ラグビーW杯、取材最終日に“まさかのトラブル”「パリで忘れ物したら戻ってこない」は本当か?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2023/11/28 11:06
パリの秋、美しい街並み。ラグビーW杯、取材最終日に記者が起こした“まさかのトラブル”とは……?
集積所の向こうには高さ2メートル50センチほどの柵があった。先端は槍のように尖っている。それでも私は「この柵を越えるしか、パリへの道はない」と瞬間的に確信した。その前夜、80歳を超えたハリソン・フォード主演の『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』を見たことにも触発されたかもしれない。
ターゲットは2カ所あり、花壇の上の柵の方が低いが、柵の向こうは地下駐車場への入り口になっていて、降りるときのリスクが高かった。それならば、地面が見える柵を越えるしかないと思い、覚悟を決めた。
私はわずかな足場に右足をかけ、柵によじ登った。柵の先端は容赦なく私を刺そうとしていた。先端をまたぐバランスを保つのが最大の難所。私は集中力を最大にして、柵をまたいだ。そして足を途中の横棒に引っ掛けて足場を確保すると、一気に飛び降りた。着地の時には、想像以上に大きな衝撃が足に走った。
しかし、私はミッションに成功していた。
「柵越え」と原稿を書いたことはあったが、自分が柵越えをするとは思わなかった。
誰かに追われているわけではないのに、私は地下鉄の駅に向かって走り出していた。
「よーーっしゃっ!」と雄たけびを上げながら。
最終日に…まさかのトラブル
そしてもうひとつは、旅の最終日に訪れた。
期間中、報道陣の盗難被害の報も耳に入っていたが、文藝春秋写真部員Mくんと私は、仕事に差し障るような事件はなかった。体調不良が2度あったが(第1週の時差などによる風邪、そして終盤に食あたり)、フランスに文句を並べていたわりには、財産、命に係わることに関しては無難に過ごすことが出来ていた。
最終日は、Mくんのお母さまが「お土産には小麦、バゲットを!」というリクエストだったので、ふたりで近くのブーランジェリーでバゲットを買い、あとはUberで空港へ向かうだけとなった。
ホテルのロビーで、トランクに入れる荷物と、手持ちのものを分別し、「車、来ましたよ」というMくんの声とともに荷物を積んだ。
旅も終わりである。すると――。
車がパリの環状線に入ってすぐ、iPhoneに通知が来た。
「淳さんの鍵が手元から離れました」
最初、誤通知かと思った。
通知を消そうとしたが、念のために鍵の所在を見ていると、さっきまで滞在していたホテルを示しているではないか。