- #1
- #2
スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
日本人のコワい体験談「フランスの鉄道で強盗被害に…」ラグビーW杯、取材最終日に“まさかのトラブル”「パリで忘れ物したら戻ってこない」は本当か?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2023/11/28 11:06
パリの秋、美しい街並み。ラグビーW杯、取材最終日に記者が起こした“まさかのトラブル”とは……?
この旅は、ふたりでなければ完成しなかった。
ニースでの「エアビーオーナー当日ばっくれ事件」で宿無しの危機に陥ったり、「三笘を追ってマルセイユ」で2時間半に及ぶ列車遅延に直面した時は、メンタルに大きなダメージを受けた。酸っぱいおにぎりを食べた時だって、そうだ(Mくんはその後、問題のおにぎり、「SONiGiRi」のホームページを発見していた。そこで明らかになったのは、酢飯でおにぎりを作っていたことである。つまり、寿司とおにぎりを混同しているのだ)。
おそらく、私ひとりだったら沈鬱になり、文章に書き残せていたかどうか……。どうにかこうにか気持ちの片隅にユーモアをもって対応できたのは、息子ほどの年齢のMくんが傍らにいて、知恵を出し合ったからだ。
トゥールーズでは、私が簡単な調理をしていたが、Mくんはなんでも「美味しいです」と言って、おかわりをしてくれていたのもうれしかった。
ところがある日、私の友人がこんなメッセージを日本から寄越した。
「生島さんが同宿されているMさんのお母さまは……料理関係者です」
この時ほど、たまげたことはなかった。
Mくんこと松本輝一カメラマンは、31歳。きっと、これからキャリアのプライムタイムを迎えると思う。
2051年大会でも、まだ59歳。きっと、そのころ私は生きてはいない。彼には、日本のラグビーがどうなっていくのかを現場で見続けて欲しいと思う。
そして2023年の秋、フランスであんなことがあったな……と思い出してくれたら、うれしい。
かつて、永六輔さんが言っていた。
「人間は2度死ぬんです。息を引き取った時と、誰にも語られなくなった時」
輝一くんが思い出してくれる限り、私は死んだことにはならない。
大切なバディを紹介させていただき、フランス・ワールドカップ珍道中、これにてお開きとさせていただきます。
ひょっとして、「パリ・オリンピック編」があるのやら、ないのやら――。
<《フランスで尊敬される日本人シェフ》編から続く>