「二軍修行」の意図

　次代を担うことを期待される正捕手候補の二軍修行のビジョンには、指揮官の様々な想いがある。その一つにリード面での経験をしっかりと積ませたいという想いがあった。吉井監督が明かす。

「例えば一軍で佐々木朗希とだけバッテリーを組むとする。そうなると正直、リードではなくて力で抑え込むことが出来てしまうことが多い。ただ本来はそうはいかない投手の方が多い。ストレートで押し込めない投手もいれば、コントロールが悪い投手もいる。二軍で色々な投手のボールを受けて、その中で工夫をしてリードをすることも覚えて欲しいという思いもあった。調子が悪くてどうしたらいいか苦労している投手をどのようにリードして打者を抑えていくのか。そういうものを学んでほしいという思いもあった」

「二軍修行」させた吉井監督の親心とは…　©︎JIJI PRESS

　首脳陣の期待に応えるように松川は二軍で精力的に活動した。ピッチャーと積極的にコミュニケーションを図り、試合後は映像を何度も見直した。

「今までボールを受けたことがない投手が沢山いましたのでしっかりと話し合いを行いながら進めていきました」と松川。

　一軍では相手打者の特徴、苦手なゾーンなどバッターに対する配球に意識しがちだったが、リードをする投手の得意な球、ストライクが取れる球、状態のいい球を引き出すなど努力した。

「ピッチャーのよいところをどうやって引き出すか。そしてピッチャーがリズムよく乗っていけるようにするにはどうすればいいのかを意識しました」と振り返る。

課題の打撃も成長

　課題となっていた打撃でも二軍首脳陣の教えを受けながら飛躍的に成長していった。「足の出し方の間というかタイミングですね。どうしても差し込まれがちだったので、左足がつくタイミングを早くしました。左足をしっかりとついて、振りに行く。その感覚を基礎からじっくり繰り返しました」（松川）

不動の正捕手へ…松川は成長を続ける　©︎Chiba Lotte Marines

　二軍で99試合に出場して松川は突然、一軍昇格の時を迎える。9月28日、仙台で行われる予定だった二軍の東北楽天ゴールデンイーグルス戦が雨天中止となり練習を終えて帰京の準備をしていると一軍昇格を言い渡された。一軍ではこの時期、体調不良者が続出。この時も特例2023の代替え指名選手としての緊急昇格だった。9月のファームの月間打率が4割を超えていた好調を買われ白羽の矢が立った。北海道のエスコンフィールドでの一軍ナイトゲーム。試合には間に合わないが、「途中からでも試合に出るつもりで向かうように」と指示され、一人、慌ててタクシーに飛び乗り仙台空港に向かった。

「一人旅は初めてでした。空港でのチェックインの仕方もよくわからなくて聞きました。あと、普段はキャッチャー道具とかバット、その他の野球道具は業者の方に運んでいただけるのですが、今回はすべて自分で持っての移動。それはなかなか大変でした」と松川は笑って話す。

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