結果として山本から奪った10本の安打のうち、ストレートを打ったのが5回の佐藤、近本と5、6回の木浪に初回の中野と半分の5本、さらにカットボールとシュートと真っ直ぐ系の球種が2本で残る3本がフォーク2本とスライダー1本という内訳だった。

　この真っ直ぐ狙いの指示が見事にはまった訳だが、その成功の背景の1つには、この試合で山本のカーブにいつもの制球力がなかったことがある。

　阪神打線といえばシーズン中から売り物だったのが、四球の多さ。いくら制球力のいい山本とはいえ当然、そのことは意識してストライク先行で速いカウントでの勝負ということが念頭にあったはずだ。そのためにはカウント球でタイミングを外して楽にストライクが取れるカーブを使いたいところだが、そのカーブの制球にいつもの精密さがない。そこでどうしても早いカウントから真っ直ぐとフォークのコンビネーションで組み立てざるを得ない形になっていった。

　そこに真っ直ぐ狙いの岡田指令がはまっていったわけである。

　そしてもう1つ。真っ直ぐ狙いには、当然のようにリスクもある。それは今度はカーブではなく、山本の決め球であるフォークが邪魔になるということだ。この試合で山本が投じたフォークは全部で28球だったが、安打は5回の中野の1本だけだった。そして阪神打線がそのフォークを見逃してボールとなったのはわずかに7球しかない。その他は空振り12球を含めて20球が凡打、ファウル、見逃しストライクという内訳だった。

　それでも岡田監督は言う。

©︎Nanae Suzuki

「真っ直ぐ打てしか言うてないよ。だってフォークの打ち方なんて教えてないもん。そやろ。誰もフォークの打ち方教えるコーチなんかいてないやん」

求めたのは“昭和のバッティング”

　岡田監督はフォークのリスクを承知の上で真っ直ぐだけにタイミングを合わせて、そのために打者に前でさばく意識を持たせたのである。

【次ページ】　求めたのは“昭和のバッティング”