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「ああ、身ぐるみ剥がされる」マルセイユ超危険地帯で“九死に一生”「危険を冒すべきではなかった」天才MFジダンの故郷で見た貧困の闇
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byXavier DESMIER/Getty Images
posted2023/10/28 11:02
ジダンが生まれ育ったマルセイユの地には“影の部分”があった
「そう。ただの脅しさ」
「なあんだ、そうだったのか」
「大抵の場合はね――。ただ、時々、下っ端がはした金がほしくて強盗をしたり、悪さをすることがある。そんなときは、上の連中から制裁を受けるそうだ」
「だったら、そういう可能性もあったのか」
「なくはない」
「なら、やっぱり危なかったんじゃないか」
「まあ、100%安全ではなかったね」
「これまで、あそこに外国人が紛れ込んで被害にあった、というニュースを見聞きしたことは?」
「ないよ。だって、誰もそんなことをしないから――」
「おおい、ソッソ、それを先に言ってくれ」
「これからは、うちへ泊まった奴が行きたいと言っても止めるようにするよ」
「……」
命の危険を冒してまで行くべきでは絶対になかった
翌日、壮麗なヴェロドローム・スタジアムでフランスの大勝(96-0)を見届けた。そして、翌22日、かつて学生時代に1年間を過ごしたモンペリエ(マルセイユから西へ約150km)へバスで向かった。
自分が感じた通り本当に危なかったのか、あるいはソッソが言うように奴らは僕を襲う気などなく単に脅かしただけなのか、それはわからない。だだ、無用な危険を冒したことは間違いない。
どうしてあんなことをしてしまったのか。その理由は、考えの甘さに加えて、好奇心に負けてしまったことだろう。
危険なことを十分に理解し、「絶対に行かない」と心に決め、周囲の人にもそう伝えていた。それを、あっさり反故にしてしまった。そんな自分に呆れている。
ジダンが生まれ育ち、少年時代にボールを蹴った場所へ行ったのは事実だが、それで何かがわかったわけでもない。これまで、フラジルでもジーコ、ロナウド、ロマーリオ、ネイマールら新旧ブラジル代表の名手が生まれ育ち、ボールを蹴り始めた場所を訪れている。どこも、何の変哲もない場所だった。「そこへ行った」という事実と記憶が残るが、それだけのこと。命の危険を冒してまで行くべきでは絶対になかった。そのことは、自分が一番よくわかっている。
ともあれ、今は無事、サンパウロの自宅へ帰還してほっとしている。
<第3回「もしブラジルなど世界中がラグビーに本気を出したら」編に続く>