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「ああ、身ぐるみ剥がされる」マルセイユ超危険地帯で“九死に一生”「危険を冒すべきではなかった」天才MFジダンの故郷で見た貧困の闇
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byXavier DESMIER/Getty Images
posted2023/10/28 11:02
ジダンが生まれ育ったマルセイユの地には“影の部分”があった
ジェーゼまでは、簡単に行けた。一見すると普通の地下鉄駅だが、外を見るとゴミが散らばっていたり、風体の怪しい若者がたむろしている。
地下鉄の構内からバスが出ており、すでに98番が停まっていた。やや貧しげだがブラジルにもよくあるような街並みを通り過ぎると、10分余りでラ・カステランのバス停に着いた。
グーグルマップによれば、歩いて100mほどのところにタルタンヌ広場がある。
「そこまで行って、広場の標識の写真を撮って帰ろう」
携帯電話を持っていることとヨソ者の両方が一度にバレた
殺風景なアパートが立ち並ぶ。建物の前の階段に、アラブ系の若者が数人、座って話をしている。彼らと目が合うと因縁を付けられる恐れがあると考え、前だけを向いて通り過ぎた。
ところが、広場らしい場所に出ない。おかしい。近くにいた男性に聞いたが、「知らない」。女性にも聞いたが、同じ答えだった。
そこで、携帯電話を取り出し、グーグルマップで「タルタンヌ広場」を探した。後になって気付いたのだが、これが致命的な失敗だった。その様子を誰かに見られ、携帯電話を持っていることとヨソ者であることの両方が一度にバレたのだ。
もっとも、この地区に住人のほぼ全員がアラブ系で、アジア人はいない。しかも、僕のフランス語は外国人のそれで、マルセイユ訛りはない(注:ソッソによれば、パリジャンのフランス語とはスピード、リズムが違うそうだ)。よそ者であるのはどうにも隠しようがなく、外国人旅行者か、よくてフランスに住んでいる外国人と思われたはずだ。
無事に帰れるのが逆に不思議で、帰り道、なぜこうなったのかを考えた。咄嗟の機転で事務所に助けを求めたのが大きかったし、英語ではなくフランス語を話したのが多少は幸いしたのではないか――。それが自分なりの回答だった。
外国人旅行者に危害を加えたら…
民宿に戻ると、居間でソッソがテレビを見ていた。
「いやあ、ヤバかった。ラ・カステランで危うく殺されるところだった」
起きたことを説明したところ、彼は意外な反応を示した。
「それなら、大丈夫。もし君が事務所に逃げ込まなくても、奴らは君の所持品を奪ったり身体に危害は加えたりはしなかったと思うよ」
「外国人旅行者に危害を加えたら、警察が捜査に入ってきて、彼らにとって非常に厄介なことになる。はした金欲しさに、そんな割の合わないことはやらない。ああいう地区では、よそ者が入り込んでも襲わないのが不文律になっていると聞いている」
「じゃあ、仮に僕が事務所に助けを求めなくても何も起こらなかった、と言うのかい?」