濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「何度もTシャツの裾で涙を…」所英男46歳は“RIZIN3連敗”でもなぜ魅力的だったのか? 父親で経営者になった“闘うフリーター”の今
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2023/10/06 11:01
セコンドの金原正徳、勝村周一朗とともに入場する所英男
所英男の闘い「2ラウンドで倒れそうだったんですけど…」
試合はヤマニハが主導権を握る。グラウンドではバックを取り、打撃で所の動きが止まる場面も。しかし所は何度も体勢を入れ替えて攻撃に転じている。最後の最後まで粘り、逆転勝ちの可能性を最後まで掴もうとしていた。
5分3ラウンドまったく休まずに動いていたのはさすがだった。結果は判定3-0の敗戦だったが、現時点でやれるだけのことはやったと言えるのではないか。試合後の所は、こう語っている。
「バック取られても、もっと動けると思ってたんですけど。フックガードもパス(ガード)できると。でもヒロのレベルが高かった。強かったです。自分の中では2ラウンドで倒れそうだったんですけど、やり切れたんじゃないかなと」
ヤマニハにとっても、所との試合は難しいものだったようだ。
「所選手は速かった。しかもずっと動き続けるので、ポジションを取るのが難しかったです」
記者が見た試合後の姿「Tシャツの裾で涙を…」
とはいえ結果は重い。周りへの感謝と自分の不甲斐なさなのか、所はコメント中に何度もTシャツの裾で涙を拭った。何も取り繕わないその姿がせつなく、また所らしいなとも思う。バイト時代もジムの会長になってからも、格好をつける様子がまるでない。公開スパーリングでも一本取られたりして、そこにも魅力を感じるというのは相当なことだ。
今後については「ちょっと今は考えられないです」と所。試合後、セコンドの2人には進退についての率直な気持ちを話したという。
「今までありがとうございます。感謝してます」
そう伝えると、勝村と金原は言った。
「それはいま考えることじゃない」
試合後の昂った感情では、極端な考えを抱いてしまいがちだ。懸けていたものが大きいだけに、落胆も大きいだろう。同時に、所はこんなことを言って泣き笑いの表情も見せた。観戦していた息子に対面した時のことを聞かれた時だ。
「(試合中)寝てたんで、起こしてビックリされちゃいました。子供には伝わんなかったですね、父親の頑張りは(苦笑)。小学校1年生で今日、名古屋まで来て。そりゃあ疲れますよね」
後半の言葉が、いかにも所らしい優しさだ。こういう姿まで含めて、負けた時の“負けっぷり”も心に残る選手だと言える。格闘技は勝つためにするもので、でも勝ち負けだけでは語れないものもあるのだと感じる。