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「何度もTシャツの裾で涙を…」所英男46歳は“RIZIN3連敗”でもなぜ魅力的だったのか? 父親で経営者になった“闘うフリーター”の今

posted2023/10/06 11:01

 
「何度もTシャツの裾で涙を…」所英男46歳は“RIZIN3連敗”でもなぜ魅力的だったのか? 父親で経営者になった“闘うフリーター”の今<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

セコンドの金原正徳、勝村周一朗とともに入場する所英男

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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RIZIN FF Susumu Nagao

 所英男は世間一般で言う“アラフィフ”になった。8月22日に誕生日を迎えて46歳。四捨五入して50だ。首都圏の“住みたい町”ランキング常連である武蔵小杉でジムを経営、小学1年生の息子がいる。ジムの会員からプロのファイターも出てきた。

 “闘うフリーター”としてビル清掃のバイトに励み、持ち帰り弁当を食べる姿が話題になったのは2005年。今は父親であり経営者であり指導者だ。

 なのに、2023年10月1日の試合でも“闘うフリーター”とコールされた。もはやフリーターとはほど遠い生活なのだが、ここまでくると原点回帰のようにも聞こえる。セコンドたちと着用したTシャツにはLITTLE VOLKとあった。これも初期の所のキャッチフレーズ“小さなヴォルク・ハン”から。ハンは前田日明率いるリングスで人気を博したロシアの名選手。所の関節技、見る者を魅了する動きはハンの影響でもある。

 昔はこう呼ばれていたけど今は違うとか、もうそういうことではなくなったという感じがする。四捨五入して50歳の所英男は、自分の歴史に対して照れる必要がなくたったと言えばいいだろうか。

 だがもちろん、闘うのは“今”だ。問われるのは46歳の実力。年齢を受け入れながら時代の流れには抗う。昨年7月、12月と2連敗。現役生活にピリオドを打つなら、そろそろ潮時ではないか。そんな見方も出てきそうな中で迎えたのが今回の試合だった。まだやれるんだと証明したかった。周りの期待に応えたかったし、子供の目と心に“闘う父”の姿を残したかった。

セコンドの声、試合前から感極まった所

 10.1『RIZIN LANDMARK 6』の会場は名古屋ドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)。対戦したのは日系ブラジル人のアラン“ヒロ”ヤマニハだ。所は岐阜県出身で、名古屋は子供の頃から“身近な都会”だったのだろう。2020年、3年ぶりにMMAの試合に復帰する際にも「RIZINに出たい」プラス「名古屋で試合ができたら」という願いがあったそうだ。最前列の関係者席では、両親と妻子が見守っていた。対するヤマニハは名古屋在住。両者へのコールが交錯する中で試合は進んだ。

 所は最近の試合でいつもしているように、セコンドの金原正徳、勝村周一朗と肩を組んで入場した。金原曰く「僕ら入場では足が震えちゃって二足歩行できないんで(笑)」。プロレスラーとしても活躍する勝村は、都内で昼の試合を終えると名古屋に直行。所はケージに向かいながら、2人の「今日やるんだ!」という声を聞いた。試合前から感極まっていた。

 1週間前、9月24日のRIZINさいたまスーパーアリーナ大会には金原が出場している。40歳のベテランは前フェザー級チャンピオンのクレベル・コイケに完勝。そのことが所には刺激になっていた。金原に続きたかった。金原も自身の試合後に「RIZINはまだ終わってない。ダブル祝勝会で(所と)一緒に飲みたい」と言っている。

 一方、ヤマニハはDEEP、パンクラス、そしてRIZINと国内MMAの最前線で闘い続けてきた。所属はボンサイ柔術。ホベルト・サトシ・ソウザ、クレベルと同門の柔術家だ。

【次ページ】 所英男の闘い「2ラウンドで倒れそうだったんですけど…」

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