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「優真がアーティストとして進化」あのコストナーが鍵山優真20歳のコーチに…門外不出のレッスンで誕生した名ステップ「高得点に頭を抱え…」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2023/10/05 17:00
東京選手権大会でショート、フリーとも首位の演技で優勝した鍵山優真(20歳)
コストナーも現地メディアに対して「優真がアーティストとして進化し始めています」とコメント。新たな魅力を開花させようとしていることが、伝わってきた。
そして9月23日、全日本選手権の予選となる、東京選手権大会を迎える。4年ぶりの有観客試合で、三浦佳生や佐藤駿らのトップ選手が集う大会とあって、客席は熱気に溢れかえっていた。キス&クライや演技がよく見える席に座ろうと、ファンが早朝から並び、開場と共にダッシュする姿も久しぶりである。
ショートでは、鍵山は4回転サルコウを転倒したものの、残るジャンプをクリーンに決めた。伸びやかなスケーティングと、切れ味あるフットワークの緩急が生かされる「Believer」のプログラム。演技構成点で9点台を出し、89.80点で首位に立った。
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演技後、正和コーチがすぐに、4回転サルコウをミスした原因を話し始める。
「(踏み切りで振り上げる)右足が、抜けきれていないから、体重移動が中途半端になっていたよ。もっと思い切って動かないと。何か不安があったの?」
鍵山は「なかったよ」と即答しながらも、納得したようにうなずいていた。そして記者の前に来ると、自分の分析を加えてこう話した。
「4回転サルコウは、6分間ではしっかり調整できていました。本番の一発目のジャンプということもあって、全体的に動きが小さくなり、回転が窮屈になってしまったことで、回転軸が斜めになりました。それがミスの原因。今日の原因はすで反省し終えているので、明日のフリーではしっかりと4回転サルコウを落ち着いて跳びます」
名ステップの誕生
その宣言は、見事にフリーで実現される。フリー「Rain, In Your Black Eyes」の冒頭、音楽に溶け込むように4回転サルコウを跳ぶ。「+5」をつけたジャッジもいるほど、軽やかで、川の流れのようにスムースなジャンプだった。落ち着いた様子で続く「4回転トウループ+オイラー+3回転サルコウ」も決め、パーフェクトの演技を見せた。
そして見せ所は、やはりステップシークエンスだった。演技後半に曲のテンポがだんだん速くなっていく場面。そのリズムと一体となって、スピード感と力強さを増しながらステップを踏む。ニコル氏が振り付け、コストナー氏がブラッシュアップしたものだ。ロンバルディア杯に続いてレベル4を獲得し、出来栄え点(GOE)でもジャッジ5人中3人が「+5」をマークした。鍵山の代名詞の1つとして昇華されていくであろう、名ステップの誕生である。