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「優真がアーティストとして進化」あのコストナーが鍵山優真20歳のコーチに…門外不出のレッスンで誕生した名ステップ「高得点に頭を抱え…」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2023/10/05 17:00
東京選手権大会でショート、フリーとも首位の演技で優勝した鍵山優真(20歳)
「コストナーさんからは、今まで知らなかったようなスケーティングや表現をたくさん教えていただくことができました」
よほど手応えを感じたのだろう。合宿後、鍵山からコーチ就任を依頼。これまでトップ選手の公式コーチを務めてこなかったコストナーだが、「私の経験を伝えられるのはとても光栄なこと」と承諾した。
実は10年ほど前、コストナーがミハエル・フースコーチのアシスタントとして、イタリアやドイツの小さな子供達に教えている場面を見たことがある。その指導は、とても分かりやすく、生徒に寄り添いながら滑る姿が印象的だった。
門外不出、至高のスケーティング
たとえばスケーティングが慌ただしい子供には、こんな言葉で。
「次の足を置くときは、身体の中から足が生えてくるような感じ。体重の10%くらいを置く気持ちで、慌てずに滑り始めること。急いでしまうと、かえってスピードは出ないものよ」
上半身の振り付けを手直しするときは、こんな言葉で。
「手だけを動かそうとすると、滑りが止まってしまうのよ。まず滑って、その流れの方向に手が引っ張られている気持ちで動かしてみて」
その時から、コストナーは素晴らしいコーチになるのだろうと感じていたが、トップ選手への同行は今回が初めて。男子顔負けのスピード、緩急あふれる滑り、そして芸術の域に達した表現で、世界を虜にしてきたコストナー。門外不出だった至極のスケーティングが、鍵山に伝えられることになる。
9月のロンバルディアトロフィー(イタリア)の前、鍵山は早めにイタリア入りし、コストナー氏のレッスンを受けた。
「自分の課題だった、スケーティングの伸びの部分をたくさん教えていただきました。また、春以来で、プログラムの細かい表現の部分を見てもらうことができました」
同大会のフリースケーティングでは、演技構成点(PCS)はすべて9点台と高得点。なにより、ステップシークエンスでレベル4を獲得し、出来栄え点(GOE)ではジャッジ7人中4人から最高の「+5」を得た。
「優真がアーティストとして進化し始めています」
コーチとして演技を見守ったコストナーは、2007年NHK杯で女子として初めてステップシークエンスでのレベル4を獲得した選手。足さばきと表現力のエキスパートである。彼女のブラッシュアップの成果が早くも現れたといえる結果だった。