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ボクシングPRESSBACK NUMBER
25歳で突然「ボクシング界の上戸彩」に…「最初は恥ずかしかった」宮尾綾香40歳が明かす、その後の15年間「一時期は本人に寄せようと…」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/09/23 11:05
15年前、長野から上京した25歳は突然「ボクシング界の上戸彩」と名付けられ、注目を集める。当時、本人が感じていたのは…
女子の場合、国内で行われる世界戦のファイトマネーは一般的に1試合100万円程度。33%はマネジメント料で引かれるため、単純計算でも手取りは67万円。ジムによっては、別途経費を引かれることもある。リングに上がるのは、年間に多くても3試合。たとえ世界王者として防衛を重ねていても、ファイトマネーで富を築くのは難しいのが日本の現実である。それでも、宮尾のボクシング熱は冷めなかった。
38歳で3度目の世界王座を奪取
「何よりもボクシングが好きだったから。もう1回、てっぺんからの景色を見たかったんです。ここであきらめると、陥落してからの時間を無駄にしてしまうと思ったので。『再びチャンピオンになる過程なんだ』と言い聞かせていました」
そして22年2月、38歳で3度目となる世界王座を奪取。後楽園ホールでIBF女子世界アトム級王座のベルトを手にしてリングで大粒の涙を流すと、客席では黄色のTシャツを着込んだ応援団がもらい泣きしていた。もはや『上戸彩』の名前を出す人はほとんどいなくなっていたが、『宮尾綾香』として人の心を動かせるボクサーになっていた。19年間のボクシングキャリアに後悔はない。最後は同年9月に初防衛に失敗してグローブを吊るしたものの、いま振り返っても『ボクシング界の上戸彩』として取り上げられたことはメリットしかなかったという。
「あれがなければ、また違ったボクシング人生になったかもしれません。注目されたことで、より強くならないといけないと思えましたから。すべてがうまく噛み合いました」
現役時代に隠していた「もうひとつの秘密」
短大を卒業後、部活の代わりにはじめたボクシングによって、『第2の人生』でも充実した日々を過ごしている。ドラゴンクエストをイメージした内装の真新しいジムをぐるりと見渡すと、スライムのオブジェに目を止め、満面の笑みを浮かべた。
「好きなものに囲まれ、今は好きなものを好きと言える。ガンダムのことだって、もう何も隠さなくていい。引退して、すっきりしました。いまはストレスフリーです」
自らの「好き」を内に秘めていた現役時代。実は宮尾には、もうひとつ隠し続けていた「好き」があった――。
<続く>