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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「イノウエはレナードやタイソンと同格なんだぞ」“中谷潤人の米国人コーチ”が語る井上尚弥30歳「右に回れ!」もし敗者フルトンのセコンドだったら…
text by
林壮一Soichi Hayashi Sr.
photograph byAFLO
posted2023/09/17 17:15
スーパーバンタム級の初戦で王者フルトンに圧勝した井上尚弥(30歳)
「試合が決まった時から、イノウエが圧勝すると確信していた。無論、ノックアウトで決着が付くだろうと。イノウエにとっては楽勝だと思った。スピードもテクニックもメンタルの強さも、両者の実力は段違いだよ。何もかも違い過ぎる。8ラウンドKOというのも予想していたね。私の周囲の人間に聞いてくれていいよ。
いいかい、イノウエという選手はね、シュガー・レイ・レナードやマイク・タイソンと同格なんだ。時代を象徴する存在ってことさ。ボクシングっていうのは、1mmに満たない、本当に僅かな足の位置やパンチの角度、距離、あるいは0コンマ何秒かのタイミングの違いによって明暗が分かれる。今、名前を挙げた選手たちは、パンチの当て方、躱し方を理解している。非の打ち所のないファイトスタイルを身に付けているのさ。それも、自分に最も適した形でね。たとえ2本の世界タイトルを手にしていたって、フルトンはそんな器じゃない。イノウエの相手にはならなかったんだ」
「イノウエはまだまだ底を見せちゃいない」
持って生まれた才能を、最大限に発揮した一握りの人間が世界チャンピオンとなるが、それを引き出す役目を担うのがコーチだと、ルディは力説した。
「預かった選手の可能性を少しでも上げてやる、強くしてやるのがコーチの役目だ。私はトレーナーとコーチは別物だと考えている。トレーニングで一緒の時間を共有するのがトレーナー。バンテージを巻いたり、ミット打ちをしたりと、一見、選手に寄り添ってはいる。だが、正確な知識で自分の選手を伸ばし、結果を出させてやるのがコーチなんだ。私は自分がコーチであることに誇りを持っているよ。
ファイターは誰もが懸命に練習するよね。イノウエも、統一ウエルター級タイトルマッチを戦ったテレンス・クロフォード、エロール・スペンス・ジュニアだってそうさ。彼らの素晴らしい試合を目にしたら、選手たちはチャンピオンに憧れて真似をしたくなるものさ。でも、超一流の動きが出来る選手って、ほとんどいない。それぞれ能力が違うんだから。フルトンだって必死に努力を重ねて2冠王者となった。でも、あれが精一杯なんだよ。イノウエは、まだまだ底を見せちゃいないがね」
ルディは続けた。
「いかに練習でいい動きをしても、試合でそれが発揮出来なければ意味が無い。リングでは何が起こるか分からない。それに対応させてやるのもコーチの仕事だ。いくらミット打ちが上手くたって、相手にパンチが当たらなければ勝てないだろう。フルトンのセコンド陣は、あの絶望的な展開のなかで、どんなアドバイスをしたのかが気になるな」
「右に回れ!」フルトンのセコンドだったら
もし、あなたがフルトンのセコンドだったら、どんな言葉を掛けましたか? と私は訊ねた。ルディは「いい質問だね」と、答えた後、ニヤリとして言った。