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河村勇輝「フィンランド戦は最高のプレーができると」高校恩師に届いたLINE…五輪決定後の夜中に「日々成長です。きょう出た課題はまた明日に」
posted2023/09/13 11:03
text by
古川明Akira Furukawa
photograph by
FIBA
井手口は日本のベンチとは反対側の2階席の後ろのほうに座っていた。高校3年間、毎日顔を合わせていた愛弟子の表情の変化は、少し離れた位置からでも、はっきりと見てとることができた。
「きたな――」
試合を支配し始めたチーム最年少の河村
フィンランド戦では一時、点差は最大18点まで広がっていたが、第3クオーター終了時点で10点差になっていた。最終クオーターがはじまり、日本が7点差に迫った残り8分36秒のところで、フィンランドがたまらずタイムアウト。トム・ホーバス監督の声が飛び、5人がコートに向かおうとしている。富樫勇樹に代わって入ったチーム最年少のポイントガードの目は、それまでと明らかに違っていた。
「まず河村のボールディフェンスが強くなった。そこまでは守備でプレッシャーをかけても、簡単にスイッチしたりしていたんです。もちろんチームの約束ごとがあるんですけど、それを優先するあまり、肝心のボールを“いじめる”ことがやれていなかったですから。迷わずいくようになりましたよね」
残り6分48秒、河村の3ポイントが決まり4点差に迫る。その直後、ジョシュ・ホーキンソンの3ポイントが外れたところで自らリバウンドを取り、ビハインドバックパスでホーキンソンのゴールを呼び2点差に。さらに残り4分35秒、井手口がこの試合のベストプレーと評したプレーが生まれる。河村がドライブからファールを受けながら、カバーに入ったディフェンスも牽制しレイアップを決め同点に。カウントワンスローも決め、ついに逆転に成功すると、沖縄アリーナの熱狂は最高潮に達した。
「きた、きた、きた、きたって。ワンプレー、ワンプレーのたびに(客席の)周りのひととハイタッチですよ。これは最後までいくなって」
ドイツ戦の屈辱……LINEの返信に感じた覚悟
井手口は河村の覚悟を感じ取っていた。
「自分でやると決めちゃったわけですよ。自分のペースでやるって。ホーキンソンに打たせるのか、馬場(雄大)なのか、比江島(慎)なのか。プレーに邪念や遠慮がなくなった。そうすると良いパスがいくわけですよ。一番年下ですけどパスで指示している。高校のときにいつもやってきたことですけど」
河村はさらに3ポイントを沈め、一気に突き放しにかかった。続けざまNBAのオールスタープレーヤー、マルカネンとの1オン1から、またしても3ポイントを決め9点差に。さらにホーキンソンとのコンビから9アシスト目をマーク。残り1分を切ったところで高いアーチの3ポイントを決め、とどめをさした。