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《142億円で強奪》「金の亡者。裏切り者」「信頼関係にヒビ」批判殺到の欧州王者イタリア→サウジ電撃移籍…大モメ監督人事の真相 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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photograph byChristopher Lee - UEFA/Getty Images

posted2023/09/16 17:00

《142億円で強奪》「金の亡者。裏切り者」「信頼関係にヒビ」批判殺到の欧州王者イタリア→サウジ電撃移籍…大モメ監督人事の真相<Number Web> photograph by Christopher Lee - UEFA/Getty Images

23年6月、UEFAネーションズリーグでのマンチーニ監督。まさかこの時、イタリアからサウジ代表に鞍替えすると想像した人は少ないだろう

 94年アメリカW杯で準優勝した元代表監督アリーゴ・サッキやイタリア監督協会のレンツォ・ウリヴィエリ会長が「代表は金で買えん。気に入らん所業だ」と怒りを顕にすると、傘寿を迎えたばかりの球聖ジャンニ・リベラが「こうなったら私が代表監督をやる。ポール・マッカートニーやミック・ジャガーだって80歳でコンサートやっとるじゃないか」といきり立つ事態に。

 6年前のロシアW杯予選で敗退し“史上最低”と蔑まれる元代表監督ベントゥーラまで「代表監督の去り方として天下に醜態を晒した」と苦言を呈したほどだ。現役の同業者たちだけが口をつぐんだ。

私は辞任という権利を行使しただけだ

 国中から上がった糾弾の声に、マンチーニは旧知の一般紙記者を通じて自己弁護を試みた。

「私は辞任という権利を行使しただけだ。もう数カ月もの間、私とグラヴィーナ(連盟会長)の意見は合わなくなっていて、彼は代表チームへの影響力を強めようとあらゆる介入を試みてきた。コーチスタッフの人事介入もそうだ。本音をいえば、彼はもっと早く私に代表から去ってほしかったにちがいない。辞任を伝えても引き留められることもなかった」

 マンチーニの言い分は、スタッフや自らの契約内容に関して連盟側に「忖度がなかったから」信頼関係が崩れ、堪忍袋の緒が切れたというものだ。

 現代のトップレベルの指導者は子飼いのコーチングスタッフを引き連れ、チーム体制で仕事に臨む。つまり、監督の仕事には“子分”の待遇を仕事の発注元と交渉する“現場の親方”的性格も求められる。

 7月下旬、雇用主である連盟が、各世代代表組織の世代交代を口実に、EURO優勝時の陰の功労者である副監督アルベリコ・エヴァーニにA代表からの勇退を迫ったのは事実だ。エヴァーニは女子代表やU20代表の監督ポストはどうかと打診されたが、やんわり辞退している。

マンチーニが無頓着と言われても仕方ないワケ

 槍玉に挙げられたグラヴィーナ会長は反論した。

「マンチーニの言い分は不快だ。私は誰それを起用しろとか采配に口出ししたことは一度もない。私からの信頼が感じられなかったと彼は言ったそうだが、それは嘘だ。カタールW杯行きを逃した試合の後、彼の隣で会見に臨み、擁護しながらその場で続投を約束したのは私だ。彼を信頼していたからこそ2026年まで契約を延長していたのだし、この8月に入ってすぐU20代表とU21代表の強化職という権限も与えた。彼の言っている辞任の動機はうわべを取り繕っているだけだ」

 いかに確執があったとはいえ、マンチーニは雇用主と揉めて仕事半ばで放り出した、と言われても仕方ない。

【次ページ】 信頼関係にもいつしかヒビが入り、札束が

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