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「ベランダからこのまま…」レジェンド女子レスラーを襲った“更年期障害とコロナ鬱”…井上貴子(53歳)が今語る「恋愛、結婚、プロレス」
text by
伊藤雅奈子Kanako Ito
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/09/02 11:02
インタビューに答える女子プロレスラーの井上貴子
――ぶしつけなことを聞きますが、結婚しようと思ったことはありますか。
貴子 あります。28、9(歳)ぐらいのときにそういう相手がいて、婚約みたいになってました。ちょうどそのあたりで、(全女を辞めて)フリーになったんですね。フリーになるからには、プロレスをもう一度ちゃんと立て直そうと。使ってもらう立場になるわけだから、プラスアルファの何かを得ないといけないし、自分を磨かないといけない。全日本女子にいたころは会社が守ってくれたけど、フリーになったら1回の失敗も許されないので、いつも以上に真剣に、慎重になっていって。
――恋愛との両立が厳しくなっていった?
貴子 結婚することに醒めちゃった。子どもが欲しかったんでね、家庭に入ってっていう考えだったんだけど、自分がプロレスのスタイルを変えたことによって、奥深さを知って、楽しくなった。まだ辞めたくないってなっちゃったんです。結婚ってなんのためにするんだろうって考えたとき、私にとっては子どもを産んで、育てることだった。けど、プロレスをやってたら、むずかしいじゃないですか。いろいろあって、彼と別れて。そこで悩んだかといったら、そうでもなくて。プロレスをやるんだから、こっちはあきらめようねって感じでした。そっからは、(結婚を考えたことが)ないかな。
――フラれた元彼はたまったもんじゃない。「婚約までしてたのにー!」と。
貴子 アハハハ(笑)。まぁ、原因はひとつではないんだけどね。別れてよかったかな、今となっては。
「若いときにヌードをやっててよかったな」
――最後に、35周年記念イベントの11月21日、東京ドームシティホール大会についてお聞きしましょうか。「ひとしずくの勇気」というタイトルが、胸に刺さりました。同じ独身アラフィフ女性として、勇気って年を重ねるごとに失っているので。
貴子 毎日毎日、ほんのちょっとの勇気を積み重ねてきた35年間で、ほんとに1滴1滴みたいな感じでした。いろんなことに勇気を出してきた35年間だったけど、自分が主役のイベントはきっと、これが最後になると思う。いつ引退してもおかしくないから。
――40周年記念はないということですか。
貴子 神取さんが来年還暦(60歳)なんですよ。大きい会場でやると思うんで、そこに参加はすると思いますけど。
――ダンプ松本選手、ジャガー横田選手のように、還暦を過ぎても意気軒昂な現役もいますが、貴子選手にその選択肢は「ない」と?
貴子 んー、ビジュアルがね。
――そこなんだ(笑)。
貴子 こういう路線でやってきたからね。夢を見せる仕事じゃないですか、プロレスって。あまり現実を見せちゃ、ダメでしょ。ファンの方はたぶん、変わらないでいてほしいと思ってるはずなんですよ。でも、それは無理だから。神取さんみたいに、ずっと強かった人が今も強いんならいいけど、私の場合はそうじゃないから。時代や人に恵まれて、若いからこそやれたことが多かった。若いときにヌードをやっててよかったなって、今日改めて思いました。こうして振り返って、話すことができるんだもんね。
〈第1回「アイドルレスラー時代」編、第2回「写真集の舞台裏」編から続く〉