丸田は7回にも球場を沸かせた。

　先頭で打席に入ると、左中間に鋭いライナーを飛ばす。一塁を回って二塁へ。そして、右足に付けたレッグガードを投げ捨てて加速し、三塁を陥れた。塁上で喜びを爆発させ、チームを鼓舞する。「慶応ボーイ」、「プリンス」のイメージとはかけ離れた、荒ぶる姿――次の1点が相手に与えるダメージの大きさを知っている。そして2死からパスボールでホームイン。相手の戦意を喪失させるには十分なダメ押し点だった。

三塁打後にはこのポーズ　©Hideki Sugiyama

WBCメキシコ戦の大谷翔平　©AFP/JIJI PRESS

自分が重点を置いているのは出塁です

　この試合、丸田はセーフティバントを含めて5打席全てで初球の変化球をスイングしている。今までのイメージを逆手に取り、さらには次戦以降も見据えた意図があった。

「2回戦、3回戦は初球にあまり手を出しませんでした。次の試合以降、初球に変化球で簡単にストライクを取られるのは嫌なので、初球から振ってくるイメージをつけようと思いました」

　実際、初戦となった2回戦・北陸戦の5打席で初球をスイングしたのは、直球をセンター前に運んだ1度だけだった。沖縄尚学戦では、甘い変化球を初球からスイングして長打を放った。これにより、準決勝では相手バッテリーには変化球で不用意にストライクを取れない強い警戒心が生まれる。その結果、打者有利のカウントとなったり、四球で出塁したりすれば、まさにインテリジェンスを生かした丸田の狙い通りとなる。

「自分が重点を置いているのは出塁です。鋭い打球を飛ばせば自然と長打になると思っていますし、後ろにつなげば得点のチャンスは広がります」

©Hideki Sugiyama

プリンスという一部報道は「いじられてます」

　2本の長打でも、仲間を盛り上げる姿でも、丸田はチームをけん引した。

「2点を追う試合展開でも焦りはありませんでした」

　頭の中には逆転勝利をはっきりと描いていた。冷静に淡々と試合を振り返る中で、表情が緩んだのはプリンスの呼び名に触れる質問が出た時。一部メディアで付けられたあだ名に「うちは男子校ですから、普段呼ばれることはないです。ただ、普段はあまり野球を観ない方からも応援してもらえるきっかけになっているのでプラスに捉えています」と笑った。

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