草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
史上13人目の“ノーノー未遂” 中日・柳裕也の熱投を支えた「絶対に忘れることはない」あの投手の面影…9回のマウンドで突如流れた「黄金魂」の秘話
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/17 11:01
“ノーノー未遂”も力投を見せた柳
脳裏に浮かんだ「未遂」の先輩
快挙への雰囲気が高まりつつあった終盤、柳の脳裏に浮かんだのは大野雄大の姿だった。「完全未遂」とは昨年の5月6日の阪神戦(バンテリンドーム)。先発した大野は1人の走者も許さず、佐々木朗希(ロッテ)に続くパーフェクト達成への期待感に包まれた。しかし、味方打線も青柳晃洋の前に点を奪えず、延長戦に。10回も続投を志願した大野は、二死から安打を打たれたから「未遂」。しかし、10回裏に味方が待望の1点を取り、大野には完封勝利が残った。その奮闘を見ていたから、手に汗握る投手戦も柳は耐え抜けたというわけだ。
9回をノーヒットノーラン、もしくは走者を1人も許さずに投げたが、延長戦に入って記録を逃したのは柳で13人目。うち10人は10回以降に自らが打たれて記録が途絶えている。無安打継続のまま降板したのは柳で3人目。うち1人は10回までは続投しており、9回で終えたのは2014年の金子千尋(当時オリックス)以来だった。9回で121球。結果だけ見れば「10回も投げておけば……」と思わずにいられないが、達成できていたかどうかは神のみぞ知る、である。
最下位に低迷する中日だが、夏休みということもあってその試合は3万3083人の大観衆だった。岡林とのダブル快挙を目撃できる期待感から、9回のマウンドに上がる柳は誇張抜きで割れんばかりの拍手と声援で送られた。そのボルテージを増幅させたのが、イニングごとに流れる登場曲だった。通常ならback numberの「ゴールデンアワー」がかかるところだが、9回だけは湘南乃風の「黄金魂」だった。その選曲の意味を、ファンはたちどころに理解した。