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「野球なら内野を2人で守るようなもの」…王者・法政大を倒すため“偏差値70超え”国立大弱小アメフト部が仕掛けた「1年越しの奇策」とは?
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by取材対象者提供
posted2023/08/26 11:02
2年連続で日本一に輝いていた法政大を倒すため、“偏差値70超”難関国立・一橋大が仕掛けた奇策「カミカゼ」の内容とは…?
また、ベースこそ固まったものの、様々な相手のプレーに対応する“手”を用意するには、多様なサインプレーも用意する必要があった。
じゃんけんならば手は3つしかない。だが、フットボールではそうはいかない。
当然だが、考え方次第で相手の攻め手は無限に存在する。そのすべてに対応することなど不可能に等しいのだが、この年の一橋はその不可能に無謀にも挑戦していった。
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「考えれば考えるほど弱いところが見えてきてしまって。相手がこう来たら、ここが弱いからこのサインプレーを入れよう。そうするとこんどはこっちが弱くなるから……もう1年間、ずっと不安しかなかったです」(常木)
最終的に秋シーズンの試合前までに準備したサインプレーは実に200種類を超えていたという。通常、1試合で使うものは多くとも10個程度だ。それと比すればあまりに異常な量だった。そしてもちろん、選手はそのすべてを頭に入れなければならない。トレーニングの合間にはひたすらペーパーテストを繰り返した。
そして驚くべきことに、上記の基本方針が決まったのは春先のことだった。
半年以上を法政大との試合のために費やす
まだ9月のシーズン開幕までは半年以上もある。
通常はリーグ戦開幕が近づくにつれて、それぞれ相手校をスカウティングし、対策を考えていく。ところがこの年の一橋大は、他の大学には一瞥もくれず、春からただただ王者・法政大だけをターゲットにしていた。
春シーズンは基本プレーのみで戦い、主力となる選手のプレー比重もあえて抑えた。秋シーズンの本番に向けて、隠せる戦術はすべて隠した。他の大学のスカウティングなど目もくれず、ただただひたすらに王者の映像だけを毎日見続けた。
すると夏合宿の頃からだろうか、チームに変化が起き始める。常木が振り返る。
「1年近くずっと法政のビデオを擦り切れるくらい見てきたわけじゃないですか。何とかこの攻撃を止める、この守備から点を取る。毎日の練習でもそのことばっかり考えてきた。そうすると、日本一のチームのプレー速度や完成度が普通のものになってくる。
そうなると、今度は他の大学チームを見ても『あれ、なにがすごいんだっけ、このチーム?』みたいに変な自信がでてきて(笑)。夏合宿の最後に別ブロックの1部校と練習試合をしたんですけど、自分たちでも信じられないくらい圧勝できました」
本気で日本一の大学チームに勝ちに行こうと考えたこと。因果はともかく、そのことでかえってチームの実力は、どんどん引き上げられていった。
そうして迎えた9月。
ついに一世一代の勝負をかけたリーグ戦が幕を開けることになる。
<つづく>