通常、アメフトの守備は最前線のディフェンスラインは4人が基本形となる。

　ランプレーを重点的に止めたい場合はそれを5人に増やし、パスプレーへの対応を強化したいなら3人に減らして後ろのメンツを増やす。ただ、この年の法政のパスアタックはそんな従来の考え方ではとても止められる代物ではなかった。

「延々と毎日、朝の2時とか3時までみんなでミーティングして、もうフラフラになっていたんです。だんだん投げやりになってきて、ようやくある時『これなら全部止まるじゃん！』という隊形ができた。でも、ホワイトボードをよく見たら（最前線の）ディフェンスラインが2枚しかいなかった（笑）」

「野球で言えば内野を2人で守るような隊形」

　これは野球で言えば内野を2人で守り、残りはすべて外野に回すような極端なシフトである。当然そんなアンバランスな隊形が成立するには、ある条件があった。

　それは、超強力なディフェンスラインの存在である。

　基本的に5人1セットである相手のオフェンスラインを、試合中たった2人で相手取り続けることになるからだ。その負担は相当なものになり、通常ではそんなシステムは成立しないのだ。

実際の一橋大 vs 法政大の様子。法政大のディフェンスは最前列に4人のディフェンスラインが並んでいる／取材対象者提供

　ところがこの年の一橋には、奇跡的にその条件をクリアできる存在がいた。

　ディフェンスラインを務めた千田一臣が振り返る。

「多分、最初は僕が言い出したんじゃないかと思うんですけど……結局、正面でぶつかったら運動能力の高い選手ばかりの法政大に勝てるわけがないんです。そうなると、何かを捨てないといけない。そうなったときに“捨てて”一番被害を小さくでき得るのが、僕のいるディフェンスラインだと考えたんです」

　千田は190cm、120kgという体躯に恵まれ、桐朋高校時代には柔道の重量級で都大会ベスト16に入るなど、もともとスポーツ経験値も高かった。加えて1年目からリーグ戦で戦ってきたキャリアもあった。サイズも運動能力も、この年の学生アメフト界において千田の実力は抜きんでたものであり、一橋においてのひとつのストロングポイントでもあった。

“奇策”のキーパーソンだった千田（99番）。圧倒的なサイズと運動能力で活躍した／取材対象者提供

　結果的に千田というピースがいたことで、奇策の条件はそろってしまった。

　そして、チームは走り出す。“カミカゼ”と名付けられたそのフォーメーションは、文字通りパス守備一辺倒の捨て身の隊形だった。

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