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「大谷翔平が9人いれば…」栗山英樹が語ったWBC監督の理想…大谷をどう口説いた?「着信を見たら翔平で…怖くてすぐに出られず」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/07/23 11:01
「もちろん明確な基準値を持っているわけじゃありません。そこは自分の見識というか、胆識というか、今の選手の姿を見て、言葉を聞いて、想いを感じて、僕の頭じゃなく体で感じるものを信じました。理論に頼ると理詰めの段階で間違いが起こる可能性があります。この選手が欲しい、じゃあ、これとこれが揃えば大丈夫だという、こちらに都合のいい理論。いやいや、そうじゃない。理屈は通っていなくても行けるとか、絶対に選ぶべきだという筋ができあがっていても選ぶべきじゃないとか……そこは本能と直感に任せるべきだと思って、心を無にして選手と向き合いました。実際、いろんな人から『彼には魂を感じない』と聞かされていた何人もの選手と話をしましたが、そう言われている選手たちもこちらの想いを真正面からぶつけると、ちゃんと返してくれるんです。先入観を捨てることがいかに大事かということを改めて思い知らされましたね」
――実際、選考結果を選手に伝えるときには、それぞれの所属球団を通じてではなく監督から直に電話をする、というところにこだわっていたそうですね。代表入りを聞かされたとき、印象に残るリアクションをした選手といえば誰が思い浮かびますか。
「何人かいますね。たとえば中野(拓夢)は寝起きな感じだったのかな(笑)。たぶん電話に出たときには僕だとわかっていなかったと思うんです。途中で気がつくんですよね。明らかに言葉の感じとか空気が変わりますから……『うん、ああ、えっと、えっ、あっ、ハイ、ハイ、でも、ホントに僕でいいんですか?』みたいな(笑)。中野のそういう感じ、好きなんですよ。普通は『オレのところへ来い』って電話を待つんですけど、中野は『うわーっ、オレのところへ来たよ~っ』って、この大らかな感じがいいんですよね」
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――栗山さんの携帯電話の番号は候補の選手たちには伝えてあったんですか。
「いや、伝えていません。だから知らない番号からかかってきているはずなんです。タイガースのスタープレイヤーが、知らない番号が通知されていたら普通は出ないでしょ(笑)。あれ、寝起きだから出ちゃったんじゃないのかな。最初はゆるーい空気だったのが、いざ選ばれたとなったら一転してピリッとした空気になる。それを感じたとき、中野は頼りになるなと思いました」
大谷翔平をどんなふうに口説いたのか?
――やっぱり知らない番号からの電話にはいきなりは出てくれないものなんですね。