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「一般家庭に比べたら変わってる。でも…」千代の富士の息子が告白…大横綱が過ごした“家族の時間”「さりげない愛情を感じていました」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by提供:秋元剛
posted2023/07/28 11:00
幼い頃の剛さんと千代の富士。多忙を極める日々の中で、父は“家族の時間”も大切にしていたという
一緒にスーツを仕立てに行った日
記念日という点で言えば、優勝した後に賜杯と子どもを抱いて記念撮影することは千代の富士の目標の一つでもあった。支度部屋で家族や関係者と並んで写真を撮る際に、幼い我が子を抱く。今では見慣れた光景を最初にやり始めたのは千代の富士なのだという。秋元さんもまだ1歳半だった1987年の九州場所で、父の太い左足にまたがって写真に収まった。
家を空けている時間が長いとはいえ、千代の富士の父親としての愛情の示し方は、その分甘やかしたり、猫かわいがりするようなものではなかったという。秋元さんが大人になってからの距離感もそっと寄り添うような父子の関係だった。
「僕がスーツを仕立ててもらっているお店があるのですが、そこの当時の会長さんが父のファンで、一緒にスーツを作りに来て欲しいと言われたので、同じ生地でスーツを作ったりもしました。体型が違うから形も違うんですが、一緒に生地を選びながら、父が決めた生地を見て『僕もそれにしようかな』と言ったら少し嬉しそうな表情を浮かべたり。そんなふうにさりげなく愛情は感じていましたね」
印象に残っているのは、還暦土俵入りの姿
秋元さんには現役時代の千代の富士の印象はほとんどない。
「当時は『男の世界に女、子どもが行くなんて』というような世間の考えもあったでしょうし、勝負事の世界。あとは単純に母が一人で幼い子ども3人を連れ出して観戦に出かけるというのも大変だったと思うんです。だから、もっぱら家でテレビ観戦をしていたそうです」
断髪式では男性しか土俵に上がることができないので、家族の代表として土俵に上がって花束を渡したが、まだ小さかったからその記憶もおぼろげだ。
父の土俵姿で印象に残っているものは、もっとずっと後になってから。2015年5月31日に行われた還暦土俵入りだという。
歴代横綱が還暦を迎えた際に行われる記念の行事。千代の富士は赤い綱を締め、60歳とは思えない堂々とした肉体で、太刀持ちに白鵬、露払いに日馬富士と現役横綱を従えて雲龍型の土俵入りを披露した。