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「母はコカイン中毒、父は銀行強盗犯」井上尚弥と対戦、フルトンが歩んできた“最底辺スラム”からの壮絶人生「背中の傷はトラに襲われて…」
text by
万葉了Ryo Bamba
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/07/24 11:01
7月25日に井上尚弥と対戦するスティーブン・フルトン。生い立ちを探ると“どん底”からの壮絶な人生の歩みがあった
異名「トラから生き延びた男の子」の由来
父によってつけられた「スクーター」、自らも好むという「クールボーイ・ステフ」という2つの愛称を持つフルトンだが、もう一つの異名がある。「トラから生き延びた男の子」。
フルトンがボクシングを始めたころから、着替えのために人前でシャツを脱がなければならない場面が増えた。すると、周囲からどうして背中に穴が開いたのかと質問攻めに遭うようになる。
「ある時、母に連れられて動物園に行ったんだけど、檻の近くに立った僕の背中をトラが引っ掻いたんだ」(BOXINGTALK.com)
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「こうして背中の傷ができた――トラの襲撃から生き延びたから。背中に実際に何が起こったのかは話したくなかったから、他の子どもたちにはそう話していたんだ。僕はいつもこのストーリーを人に話していたし、信じる人もいた。僕は真顔でいようとした。この物語にこだわっていた」
この噂が近所のボクシングジム中に広まった。「動物園でトラに襲われた子ども」として。
父は僕のために10年間を犠牲にしてくれた
「トラから生き延びた男の子」はグローブを手にスターダムの階段を駆け上がる。2014年10月のデビューから負けなしの19連勝で2021年1月にWBO世界スーパーバンタム級王座を獲得。WBCのベルトも手に入れ、21戦無敗のまま25日に挑戦者・井上尚弥と対峙する。
フルトンは父への感謝を口にする。
「彼は僕のために10年間を犠牲にして(服役して)くれたんだと受け止めている。その日々があったから、今、僕はここにいられるんだ」
15歳になるまでに、5人の友人が殺された
父はこう言う。