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「母はコカイン中毒、父は銀行強盗犯」井上尚弥と対戦、フルトンが歩んできた“最底辺スラム”からの壮絶人生「背中の傷はトラに襲われて…」
posted2023/07/24 11:01
text by
万葉了Ryo Bamba
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
前バンタム級4団体統一チャンピオン井上尚弥(大橋)が挑むWBC&WBO世界スーパーバンタム級2団体統一王者、スティーブン・フルトン(米国)。デビューからアメリカで21連勝を挙げ、初めて日本に乗り込んできたこの男は何者なのか。ペンシルベニア州出身の王者の原点を探ると、ボクシングを始めるまでに、薬物と犯罪にまみれたスラムの「どん底」から這い出して来た幼少期があった――。
“麻薬使用者の隠れ家”で生まれ育つ
米ペンシルベニア州フィラデルフィア、リチャード・アレン団地。この公共団地は1941年、貧困労働世帯向けに竣工された。1980年代から全米で一世を風靡したコメディアン、ビル・コスビーもこの団地出身だ。
80年代から、リチャード・アレンは環境の悪化にともない犯罪の増加に直面する。かつては先進的な設計の好例とされた広大な複合施設だったが、かえって周囲から孤立し、監視の目が届きにくかった。州政府や自治体の予算削減によってメンテナンススタッフも削減される中、放置された空室が麻薬使用者にとって格好の隠れ家となったのだ。
1994年7月17日。フルトンはそんなスラムど真ん中、狭い2部屋しかない「12J号室」で、4人姉弟の末っ子として生を受けた。
背中にあった矢じりのような欠損
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フルトンは、背中の下部に矢じりのような形の先天性欠損を持っていた。今でこそあざのように見えるが、生後しばらくは背中の筋肉が完全に発達しておらず、穴のように傷跡がぽっかりと空いているように見えたという。
先天性の欠損だと正式に診断されたことはなかったが、医師は背中の筋肉を蝕む穴はいずれ治る、と家族に告げた、とフルトンは言う。