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「母はコカイン中毒、父は銀行強盗犯」井上尚弥と対戦、フルトンが歩んできた“最底辺スラム”からの壮絶人生「背中の傷はトラに襲われて…」
text by
万葉了Ryo Bamba
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/07/24 11:01
7月25日に井上尚弥と対戦するスティーブン・フルトン。生い立ちを探ると“どん底”からの壮絶な人生の歩みがあった
「背中に穴が空いていることは知っていたが、大人になるまで原因が分からなかった。母が僕を妊娠している時にコカインを使っていたんだ」(BOXINGTALK.comより)
自意識の強かった幼少期は、家の外で自らシャツを脱ごうとはしなかった。「僕が子どもだった時は傷があることに悩んでいた。今では楽しいものでもあるけど」
深夜には銃声が聞こえた
4姉弟の長女、イヤナ・ムーアは7歳のころから、母・コマレアナが家にいない時はフルトンと妹の面倒を見ていた。フルトンのオムツを替えるだけでなく、シャツを着替えるのも手伝った。弟の背中の傷が見られないようにだ。
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物々しいスラムの環境について、イヤナは回想している。
「多くの愛がそこにはあった。でも深夜には銃声が聞こえた。私は夜になると怖かった。みんなが外に出てくるから。でもそれが私の生活だった。私はスティーブンと妹たちの面倒を見なければならなかった」
コカインは彼女の逃げ道だった
一方でイヤナは、コカイン中毒だった母の様子についてもよく覚えているという。
「母さんは私たちが安全でいられるようにしてくれた。母さんはいつも食卓に食べ物があるようにしてくれた。私たちは母さんがドラッグを使用していたのを知っていたけど、努めて私たちの目の前でやろうとはしなかった。よく母さんとトランプをしたものだけど、ゲームの途中で何かするために部屋を出ては、また戻ってきた。私は母が何をしているのか知っていた」
フルトンも後にこう振り返っている。
「コカインは彼女の逃げ道だった。母さんはシングルマザーで、北フィラデルフィアで4人の子どもをひとりで育てていた。彼女は荒んだ人生を送ってきた」
「母さんが過去にしたことすべてを許している。それを伝えたい。彼女は自分のしてきたことを克服した強い女性だ。僕は母を愛している。母を誇りに思うし、母自身が変わったことも誇りに思う。母は20年間麻薬と手を切っている。僕たちの面倒を見るためにベストを尽くしてくれたんだ」
生後数カ月後に銀行強盗をした父
一方、父とは10歳になるまで顔を合わせたことがなかった。