炎の一筆入魂BACK NUMBER
“打”の松山、“走”の羽月、“守”の曽根…じわり浮上で首位を窺うカープの、終盤を勝ち切るための3人の切り札
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/07/03 11:02
今シーズンは主に代打として活躍する松山。リーグ3連覇に貢献した37歳のベテランは今年が16年目のシーズンとなる
松山の多くの出番は終盤7回以降。試合開始から中盤までの戦況を見つめ、5回から体を動かしはじめる。だが、今季は4回に出番が訪れた4月20日阪神戦を含め、6回までの代打出場が6回もある。
結果は6打数4安打6打点。ベンチ内の連携が高まったことに加え、野球観を共有する指揮官ゆえに、想定するタイミングと呼ばれるタイミングに差異はない。
「今年は早めに勝負をかける、と言われているので、自分で展開を読みながら、タイミングを見て準備している」
高い打撃技術と集中力、そして瞬間的に心技体をピークに持っていく準備力があるからこそ、切り札であり続けられる。
待望の韋駄天
打で打開するのが松山ならば、足で打開するのが羽月隆太郎だ。新井体制下で、最も台頭を待ち望まれたカードと言えるだろう。
4月28日に一軍昇格し、今季出場4試合目の5月13日の巨人戦でその立場を明確なものにした。1点ビハインドの9回、先頭の野間が四球を選んで無死一塁とすると、ベンチは羽月を代走に送り出した。走力のある選手からの代走策は昨季まで見られなかった策であり、重圧が増すとみられた。だが、23歳は遂行した。
巨人の守護神・大勢と大城卓三の侍バッテリーが警戒する中、初球にスタートを切り、二塁ベースに右足を突き刺すようなスライディングで二盗をもぎ取った。そこから犠打、二ゴロで生還。無安打での同点につなげた。
「今季は『3歩目までじゃなく2歩目まで』ということだけ、ずっとやってきた。あとは『力勝負できるから行っていいよ』と言われていたので、信じて行きました」
昨季から急激に走力が上がったわけでも、リード幅が広くなったわけでもない。一塁コーチャーズボックスにいる赤松真人外野守備・走塁コーチや新井監督ら首脳陣の信頼が、次の塁を目指す背中を後押ししている。
すでに今季6盗塁は2021年に並び自己最多だ。今季代走で起用された9試合で5盗塁(シーズン6盗塁)、4得点。羽月は足で攻撃を勢いづけている。