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「1試合6万円~」知られざるプロボクサーの“収入事情”…トラブルで引退させられた元日本王者に起きた奇跡「“まさかの”世界戦、結果は?」
text by
細田昌志Masashi Hosoda
photograph byGetty Images
posted2023/07/03 17:02
38歳の現役プロボクサー近藤明広(右)。自らも認める「不思議なボクシング人生」を語る(写真は2017年の世界タイトル挑戦時)
日程は2017年11月4日、「WBC世界ヘビー級タイトルマッチ・王者・デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)対挑戦者・バーメイン・スタイバーン(カナダ)」の前座で行われ、会場はNBAブルックリン・ネッツの本拠地であり、ボクシングのビッグマッチも頻繁に開催される2万人収容の大型多目的ホール「バークレイズセンター」である。
さらに特筆すべきは、両国国技館で行われる「WBA世界ミドル級タイトルマッチ・王者・アッサン・エンダム(フランス)対挑戦者・村田諒太」の2週間後という偶然もあった。
ともかく、近藤明広にとって、後楽園ホール以外で行う記念すべき初めての試合が海外での世界戦であり、かつての盟友村田諒太の世界再戦の2週間後という、何重にも劇的な状況が整ったのである。
「何もかも映画みたいでした。場所はニューヨーク。記者会見にはあのドン・キングがいて、ワイルダーまで横にいる。英語が飛び交ってるから、何を言っているのかさっぱりわからない(苦笑)。でも、雰囲気に呑まれたわけではなかったです。コンディションも上々だったし、勝機も十分に感じていました」
「ああ、これで引退か…」
試合は期待に違わぬ一進一退の攻防となった。序盤から左右フックを繰り出すリピネッツに対し、強めのリードジャブで応戦する近藤。さらに、ボディアッパーで動きを止めて、5Rには右ストレートでリピネッツをぐらつかせてもいる。
しかし、ここからリピネッツがアウトボクシングに切り替えたことで、風向きは変わる。追い切れない近藤はポイントを奪われるも、最終ラウンドに再び攻勢に出て、場内を大いに沸かせた。
判定の結果は117―111、117―111、118―110という大差の判定で、リピネッツが新王者に輝いた。ただし、近藤の善戦も目立った。事実、ランキング制定にも影響力を持つ「リング誌」記者のライアン・サンガリアの自己採点は115―113の僅差でリピネッツ。全米メガケーブル局「Showtime」アンカーマンのスティーブ・ファーフッドに至っては114―114でドロー判定である。
「控室に戻って『ああ、これで引退か』なんて思ってたし、実際にそのつもりでいたんです。そしたら、IBFのプロモーターがドカドカ入って来て『めちゃくちゃいい試合だった。次も試合を組むからやってくれ』って言ってきた。びっくりしました。実際にランキングも3位から5位と、そんなに下がらなかったんです」
“まさかの”チャンピオンベルト
帰国後、すぐさまジムは世界再戦に動いた。IBF本部との調整をはじめ、世界ランカーのブッキングもつつがなく進み、ドウヌア・サックリン(タイ)との「挑戦者決定戦」としてまとまった。後は近藤が試合に勝つだけである。