そんなとき、新しいアパートに引っ越そうと不動産屋を訪ねた折、一人の男性に声をかけられた。偶然同じ店舗に立ち寄った一力ボクシングジムの鈴木康晋マネージャーである。世間話がてら、現在置かれた状況を鈴木に打ち明けたことで事態は急展開を迎える。数日後、近藤のもとに一力ジムの小林一会長より連絡が入ったのだ。

「海外に活路を見出すなんて無理だって。俺でよかったら力を貸すよ」

　そこからトントン拍子に話は進み、古巣の日東ジムと一力ジムの間で交渉が成立。一力ジム及び近藤本人が移籍金を負担することで、近藤明広は晴れて一力ジムの所属ボクサーとなったのだ。

「まさかの展開でした。でも、こうしていろんな方にお世話になって移籍出来たというのに、今度は結果が追い付かなかった。何となくパッとしない試合が続いて『こんな試合ばっかりじゃあ、もう試合を組んでもらえなくなるんじゃないか』って不安だらけで」

7年ぶりのチャンピオンベルト

　程なくしてジムは、近藤にタイトルマッチのチャンスを与えた。「WBOアジア太平洋スーパーライト級王座決定戦」である。

「ラストチャンスだと思って、このときばかりは死に物狂いで練習しました」

　この試合で近藤は、ジェフリー・アリエンザ（フィリピン）を相手に打ちつ打たれつの死闘の末、11RTKO勝利。6年ぶりに王座戴冠に加え、IBF3位、WBO9位と、世界ランキング復帰を同時に手にしたのである。

「これは嬉しかったです。実はジムにとっても初のベルトだったから恩返し出来ました。ただ、以前ほど祝勝会をやったわけじゃなかった。つまり、みんなが求めているのはこういうベルトではなくて、世界のベルトということを痛感したし、だからこそ『絶対に世界王者にならないと』って強く念じました」

　とはいえ、いくら世界ランカーに復帰したからといって、世界戦がすんなり決まるとも思えなかった。当時、この階級の世界王者に君臨していたのが、ジュリアス・インドンゴ（ナミビア）を破って4団体統一を成し遂げたテレンス・クロフォード（アメリカ）だったからだ。

「何もかも映画みたいでした」いきなりの世界戦

「さすがに、最強のクロフォードが相手ならチャンスはない」と近藤は匙を投げていたが、ここでも“諦め力”が作動する。突如クロフォードがウェルターへの転級を発表して王座を返上、IBF本部は同級1位のセルゲイ・リピネッツ（カザフスタン）と同級3位の近藤明広の間で王座決定戦を指示してきた。正真正銘のビッグチャンスである。

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