しかし、この試合で近藤は5RKO負けを喫してしまう。初のKO負けに加え、世界再挑戦が大きく遠のいた。

「さすがに落ち込みました（苦笑）。もう、これは無理だろうと。ジムに相当お金を使わせた上に、結果が残せないとなると、さすがに難しい。さらに復帰戦でも負けてしまって、その後で久しぶりに組まれた日本タイトルマッチも負傷判定でドロー。『あーあ、今度こそ本当に引退だ』と思ったんです」

　しかし、“諦めの神”は近藤を見捨ててはいなかった。昨年6月、引退を懸けて臨んだ東洋太平洋スーパーライト級タイトルマッチにおいて、王者・麻生興一（三迫）に序盤からラッシュを仕掛け、勝利をもぎ取った。まさかの王座戴冠である。

「息を吹き返した気がしました。この数年のスランプが嘘のようでした。そしたら、次の試合もKO勝ちです。その勢いで初防衛戦も手ごたえがあったんですけど……これが判定負け（苦笑）。世の中うまくいかないもんだなあ」

昨年6月、麻生興一に勝利し、東洋太平洋スーパーライト級王者に　©AFLO

　それでも、今までの敗戦と違ったのが「まだやれる」と考えるファンが大勢いたことだ。事実、試合を観戦していた筆者の自己採点は115―113で近藤の判定勝利、王座防衛だった。僅差の判定負けに、ファンが現役続行を望むのは当然のことである。

「ぶっちゃけ毎日が戦争ですよ」38歳のチャンス

　そして、3月に行われた復帰戦をTKOで飾ると、近藤は堂々と宣言した。

「もう一回世界を目指したいんです。そして、今度こそ世界に辿り着きたい」

　そうは言ったものの「こんな無冠のロートルに、そうそうチャンスが巡ってくるわけない」と、またもや自嘲の気持ちが頭をもたげたところで朗報がもたらされた。7月20日、WBO世界スーパーライト級7位のホセ・マヌエル・ガルシア・バスケス（メキシコ）との一戦が正式に決まったのである。これに勝てば世界ランキング復帰となるのは言うまでもない。

大学の同期・村田諒太との近影

「この春からウチの奥さん（枝里奈夫人）が働きに出て、上の子は小学校でサッカーを始めて、下の子は2人とも保育園に預けていて、ぶっちゃけ毎日が戦争ですよ。朝からてんやわんや。こんな大変な毎日、どう考えても試合どころじゃない。でも、そのとき、ふと思ったんです。『あ、だからこそ、やれるんじゃないか』って。だってある意味、試合より大変なことを毎日やってるんですから」

　そして、こうも言う。

【次ページ】　「ぶっちゃけ毎日が戦争ですよ」38歳のチャンス