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セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
80歳超えて茶髪に植毛、精力絶倫で“54歳年下妻”と…ミラン名物会長ベルルスコーニの剛腕人生「キャプテン翼」欧州大ヒットも仕掛け役?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2023/06/27 17:01
06-07シーズンのCL制覇時のミランとベルルスコーニ会長
イタリアは言うに及ばず、アンドレス・イニエスタやティエリ・アンリ、ルーカス・ポドルスキといった各国レジェンドたちの『翼』好きはよく知られるところだが、彼ら西欧の少年少女を熱中させたチャンネルこそが、まさにベルルスコーニの放送局だったのだ。
つまり『キャプテン翼』の欧州大ヒットはベルルスコーニのおかげであり、サッカー界の裾野拡大や才能輩出に(間接的にだが)世界レベルで影響を与えたといえなくもない。ご当人なら“今のサッカー界があるのはすべて私のおかげ”くらいのことは平気で言いそうだが、肉声を聞く機会は永久になくなってしまった。
遺産は約6000億円超ともいわれている
死したベルルスコーニには、国葬と国家服喪というイタリア共和国最高の栄誉が与えられた。一方で汚職と疑惑、スキャンダルに塗れた彼には過ぎた厚遇だと顔をしかめ、拒否反応を示す反発世論も強かった。
遺産は約6000億円超ともいわれている。5人の子息と内縁の妻との間で相続問題が起きるだろうが、この先、彼らが父親ほどサッカーへ財布を開き、熱を傾けてくれるとは、正直ちょっと考えにくい。
今年4月、故人は『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙最後のインタビューに応じた。
老いてなお矍鑠(かくしゃく)と語り、ミランの現指揮官ステファノ・ピオリとモンツァのパッラディーノ監督を2人とも素晴らしいと称え、サッカーの未来を担う選手はハーランド(マンチェスター・C)とエムバペ(パリSG)だと話した。
小噺やジョークはなく、インタビューの最後に一言言わせてほしいと聞き手の記者に頼んだ。
「フォルツァ(頑張れ)・ミラン。これだけは、本心なのだ」
自らの死後をネタにしたベルルスコーニの小噺には続きがある。
《私を呼んだのは神だった。
天国の経営問題で悩みがあるという。
よろしい、私にまかせなさい!
私は、天国を株式会社にして上場するよう神に助言した。3時間もレクチャーしてあげた。特別サービスだ。
私の提案に、神は「素晴らしい!」と上機嫌そのもの。
だが、神は一つだけわからないことがあるという。
「……シルビオ、なぜ私が“副”会長なのだ?」》
エレベーターで一緒になった時の空気は…
ベルルスコーニは、神すら脇役にしてしまうほど不遜で唯我独尊だった。
支持者と反対層、ビジネスパートナーと政敵、そしてミランと“その他”。それぞれに見せる顔は異なっていた。愛され、憎まれ、謎理論トークで煙に巻き、時折難しい顔で睨みを利かせた。
サン・シーロの記者席へ上がる、ぎゅうぎゅう詰めのエレベーターでシルビオ・ベルルスコーニと一緒になったことがある。
彼は黙っていた。
その場にいた誰も口を開かなかった。
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