ぶら野球BACK NUMBER
「松井秀喜さんは歴史上の人物みたいな感じ」なぜ秋広優人20歳から“巨人で55番のプレッシャー”を感じない? 「原巨人は若手が育たない」の終わり
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/22 17:28
現在の巨人で55番をつける秋広優人(20歳)。写真は2月の宮崎キャンプで松田宣浩と
「今年は選手を怒ったことがない。何かいいものを探して話をする。経験のない選手が多いしね。こういうものも必要だよな、みたいな感じでね。1軍は厳しい舞台。その戦場から降りた選手に64歳がバーンって言っても大変でしょう」(23年5月30日付スポーツ報知)
第1次政権は選手の兄貴分、第2次政権の怖い親父的なスタンスとはまた違う、64歳が辿り着いた令和の監督像。さらに今のチームの4番には、5年連続30本塁打の岡本和真という日本を代表する若き4番打者がいる。もう無理に秋広に、スラッガー松井の幻影を背負わせる必要もなくなった。大田泰示が55番をつけていた時代とは、巨人のチーム事情も大きく変わったのだ。
「原巨人は若手が育たない」時代の終わり
今思えば、10年ほど前の巨人の主力は、逆指名ドラフト組(高橋由伸、阿部慎之助、内海哲也)、ドラフト1位組(坂本勇人、長野久義、澤村拓一、菅野智之)、FA移籍組(杉内俊哉、村田修一)、実力派外国人選手(ホセ・ロペス、スコット・マシソン)らいわば大物エリート軍団といったチーム編成だった。
それが2023年シーズンの巨人は、3番を打つ秋広が20年ドラフト5位。リーグトップの8勝を挙げるエース戸郷翔征は18年ドラフト6位と下位指名からの叩き上げの若手選手が主軸を担っている。ルーキーたちも早い段階で一軍起用されており、三塁守備ではチーム屈指と評され、すでに51試合に出場している門脇誠が22年ドラフト4位。中継ぎで18試合に登板している田中千晴はドラフト3位である。ラミレスやグライシンガーを強奪していたタツノリとは思えない……じゃなくて、よくタブロイド紙で言われる「原巨人は若手が育たない」とは真逆の現象が起きているわけだ。
もはや、逆指名ドラフト時代が完全に終わり、注目のFA選手は巨人ではなくメジャーリーグを目指す時代になった。マネーゲームではソフトバンクにかなわないというシビアな現実もある。円安ドル高で外国人野手も年々小粒化している。一昔前の巨人の“史上最強打線”的な、ビッグネームを並べるチーム編成はほぼ不可能だろう。長野や菅野のように他球団の指名を拒否してまで、有望選手が巨人入りを熱望するというドラフト騒動には、もはや懐かしさすら感じてしまう。もちろん、50年以上前の栄光のV9時代と比較するような評論には何の説得力もないだろう。
この10年で急激に球界事情は変わった。だから、今の原監督は若手を積極的に試し、試行錯誤しながら次代のチームのベースを作ろうとしている。その流れの中心にいるのが、23歳の戸郷であり、20歳の秋広なのである。
2023年シーズン、現在リーグ3位の巨人が優勝できるかは分からない。だが、90年近い長い球団史において、ひとつの大きな転換期、ターニングポイントにいることには間違いないだろう。
平成に松井秀喜から大田泰示へと継承され、今は秋広優人が確立する令和の55番像――。それは「あの頃の巨人」の終わりであると同時に、「新しい巨人」の始まりの象徴なのである。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。