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「サル! 死ね!」人種差別が醜悪化 なぜマドリーFWビニシウスはスペインで標的に? 久保建英と“韓国の新エース候補”もマジョルカで…
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2023/06/11 11:01
ブラジル代表とレアル・マドリーで輝きを見せるビニシウス。なぜワールドクラスの彼に醜悪な人種差別が浴びせられるのか
知り合いのブラジル人弁護士にブラジルとスペインにおける人種差別行為への処罰の違いについて尋ねたところ、「ブラジルの方がはるかに迅速に、そしてはるかに厳しい処罰を下す。我々から見ると、ビニシウスへの人種差別行為に対するスペイン司法当局の対応は非常に手緩い」と憤慨していた。
黒人だけでなく、久保らアジア系選手も…
人種差別の被害者は、黒人だけとは限らない。マジョルカ在籍中の2020年2月、日本代表FW久保建英(現レアル・ソシエダ)がフィジカルコーチから“つり目”で合図をされた(注:多くのアジア人の目が細いことを示唆し、時と場合によって差別的な意味合いを持つ)。また、今年5月、マジョルカ在籍の韓国代表MFイ・ガンインがハビエル・アギーレ監督(2014年から15年にかけて日本代表監督)から「チノ」(注:「中国人」を意味するスペイン語で、これも時と場合によって差別的な意味合いを持つ)と呼ばれた。
世界にはアジア人への差別意識を持つ人が一定数おり、外国でプレーする日本人選手はいつ人種差別を受けてもおかしくない。また、日本でもサポーターやファンが外国人選手に対して差別的な発言や扱いをした事例がいくつもある。
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筆者は長年、ブラジルに住んでいるが、この国で人種差別を受けたことは一度もない。逆に、極めて親日的な国ゆえ、「日本人であるというだけで信用してもらえる」といった“得”をしたことが何度もある。ただし、他の南米諸国、欧州、中東などでは差別的な扱いを受けて嫌な思いをしたことがある。しかし、黒人やイスラム教徒らが世界各地で受ける人種差別の頻度と過酷さはその比ではないはずだ。
差別撲滅を訴えるスペインvsブラジルを開催へ
6月5日、ブラジル、スペイン両国のサッカー連盟は、来年3月にスペインで人種差別撲滅を訴える親善試合を行なうと発表した。そしてビニシウスへの連帯を示すため、ブラジル連盟はこの試合でブラジル代表の選手たちが黒いユニフォームを着用することを明らかにした。
フットボールは、世界で最も多くの人がプレーし、世界で最も多くの人が試合を観戦する世界最大の人気スポーツだ。大衆のスポーツであり、それゆえ、スタジアム内外でその国が抱える社会問題が顕在化することが少なくない。人種差別もその一つだ。
それだけに、もしフットボールから人種差別を一掃できれば、その国に、ひいては世界中に極めてポジティブな影響を与えることができるのではないか。
スペインのみならず、世界各国のリーグ、フットボール協会、FIFA、そして我々フットボール・ファミリー全体の心構え、モラル、実行力が問われている。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。