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「サル! 死ね!」人種差別が醜悪化 なぜマドリーFWビニシウスはスペインで標的に? 久保建英と“韓国の新エース候補”もマジョルカで…
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2023/06/11 11:01
ブラジル代表とレアル・マドリーで輝きを見せるビニシウス。なぜワールドクラスの彼に醜悪な人種差別が浴びせられるのか
5月24日のホームでのラージョ・バジェカーノ戦で、サポーターはスタンドに「我々は、皆、ビニだ。(人種差別は)もうたくさん」という巨大フラッグを広げた。選手たちは、全員がビニシウスのユニフォームをまとって入場。両チームの選手たちは、「レイシストたちは、フットボールから出ていけ」という横断幕を掲げた。
ビニシウスは膝の痛みで欠場したが、ピッチには姿を現わし、サポーターとチームメイトに感謝した(筆者は、テレビでこの映像を見ていて胸が熱くなった)。
なぜビニシウスに対して執拗で悪質なのか
過去にも、左SBロベルト・カルロス、FWフッキ、右SBダニエル・アウベスら多くのブラジル人選手たちがスペイン、イタリア、ドイツ、フランス、ロシア、ウクライナなどで人種差別を受けてきた。
その中でも、ビニシウスへの人種差別はとりわけ執拗で悪質だ。それは、彼がレアル・マドリーという超ビッグクラブの主力選手であり、圧倒的なスピードとテクニックでマーカーを手玉に取り、試合を決める重要な得点を叩き込むからだろう。
2018年夏、彼はブラジルの名門フラメンゴからレアル・マドリーへ移籍した。最初の2シーズンは控えだったが、昨季から絶対的なレギュラーとなり、対戦相手に大きな脅威を与え続けている。そして、彼の選手としての成長に比例して、対戦相手のサポーターによる人種差別行為がエスカレートしてきた。
ブラジルは、世界中で最も人種差別が少ない国の一つだろう。学校と家庭で、「人種、国籍、宗教、出自などによって人を差別することは間違っており、重大な違法行為である」と繰り返し教わる。また、差別行為を犯したことが明らかになれば、実際に厳しい処罰を科せられる(注:商店、宿泊施設、娯楽施設などが客に差別的な対応をした場合、罰金のみならず営業停止処分を受けることが少なくない)。
知り合いのブラジル人弁護士に聞いてみると…
これに対し、スペインでも人種差別行為は違法だが、法律の適用に関してブラジルとは大きな差があるようだ。
2021年10月以来、ビニシウスに対して少なくともスペインリーグで10試合、スペイン国王杯で1試合で人種差別行為が確認されているが、その多くのケースでリーグ、クラブ、警察は加害者を特定できておらず、処分が下されていない。
ようやく6月5日、今年1月26日のマドリード・ダービーの際にビニシウスの人形を“絞首刑”にしたアトレティコ・、マドリーのサポーター4人に6万ユーロ(約900万円)の罰金と2年間のスポーツ施設立ち入り禁止処分が科され、5月21日のバレンシア戦で人種差別行為を行なったバレンシアのサポーター3人に5000ユーロ(約75万円)の罰金と1年間のスポーツ施設立ち入り禁止処分が下された。
しかし、この7人以外にも人種差別行為を働いた者が大勢いるにもかかわらず、当面、彼らに対しては何のお咎めもない。