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「サル! 死ね!」人種差別が醜悪化 なぜマドリーFWビニシウスはスペインで標的に? 久保建英と“韓国の新エース候補”もマジョルカで…
posted2023/06/11 11:01
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph by
Takuya Sugiyama/JMPA
5月21日に行なわれたスペインリーグ第35節のバレンシア対レアル・マドリー戦。ブラジル代表FWビニシウスは、試合を通じてバレンシアのサポーターから「モーノー、モーノー」(注:スペイン語で「サル」を意味する)と罵倒され続けた。
ビニシウス「差別行為が頻発しているのに…」
後半28分、ビニシウスはゴール裏のサポーターを指差し、「奴らが俺を罵った」と血相を変えて抗議。両チームの選手が集まって紛糾し、約8分間、試合が中断した。
さらに、アディショナルタイムに両チームの選手が小突き合い、その際、ビニシウスがバレンシア選手の顔に肘打ちを見舞ったとして、主審が退場処分を下した(注:その後、リーグはバレンシア選手が先にビニシウスを羽交い絞めにしていたことを見過ごしていたとして、この処分を撤回した)。
試合後、ビニシウスは「この国のスタジアムでは、このような人種差別行為が頻発している。にもかかわらず、ラ・リーガ(スペインリーグ)はレイシストたちに何の処罰も下さないし、何の対策も講じない」と怒りを露わにした。そして、「僕はスペイン国籍を持っており、スペインを愛している。でも、人種差別には絶対に屈しない。仮にこの国から遠くにいてもね」と付け加え、レアル・マドリーを退団する可能性を示唆した。
G7サミットでルーラ大統領も語ったほど
この事件に対し、ブラジル人たちは即座に反応した。国内メディア、国民、選手たちはこぞってビニシウスを支持し、バレンシアのクラブとサポーター、スペインリーグなどを痛烈に非難した。
当時、ブラジルのルーラ大統領はG7広島サミットに出席していた。試合の翌日、記者会見に臨んだ大統領は、冒頭、こう語った。
〈まず最初に、レアル・マドリーでプレーしているブラジル人の若い黒人選手への支持と連帯を表明したい。
スペインリーグの試合で、彼は「サル」と罵られ、ひどい辱めを受けた。21世紀も半ばに近い今日、いまだに人種差別が存在しているのは恥ずべきことだ。
彼は貧しい家庭に育ち、人生における戦いに勝利して、世界最高のフットボーラーの一人となった。その若者が、試合の度にいわれのない侮辱を受けている。
FIFA、スペインリーグなどのフットボールの統括団体がしかるべき措置を取ることを強く望んでいる。スタジアムで人種差別行為が行なわれることは、断じて容認できない〉