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「サル! 死ね!」人種差別が醜悪化 なぜマドリーFWビニシウスはスペインで標的に? 久保建英と“韓国の新エース候補”もマジョルカで…
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2023/06/11 11:01
ブラジル代表とレアル・マドリーで輝きを見せるビニシウス。なぜワールドクラスの彼に醜悪な人種差別が浴びせられるのか
同じ日、ブラジルの外務大臣もこの問題に言及。「ビニシウスは、度重なる侮辱に耐えかねてレッドカードを受けた。しかし、レッドカードはビニシウスではなくレイシストたちへ突きつけられるべきだ」、「FIFA、スペインリーグ、そしてスペイン政府には、この問題に対して真摯に対応していただきたい」という声明を発表した。
スペイン代理人協会の会長の”失言”もあった
歴史的に、ブラジルとスペインは友好国だ。ブラジル人にとって、スペインは最も人気がある観光地の一つ。しかし、今回の件で多くのブラジル人が「スペインは人種差別国家」という認識を持ち、スペインとスペイン人に対するイメージが急激に悪化したのではないか。
ビニシウス本人が言うように、これまで再三、彼はスペインで人種差別の犠牲となってきた。
最初の明白な事例は、2021年10月のバルセロナ戦。スタンドの地元サポーターから「モーノー」コールを浴びた。リーグは問題のサポーターを特定できず、うやむやになった。
以来、スペイン各地でビニシウスは人種差別を受け続ける。
試合前、スタジアムの外での「モーノー、モーノー」、「ビニシウス、死ね!」の大合唱に始まり、試合が始まって彼がボールに触る度に「モノ」と叫び、「ウッ、ウッ、ウッ」とサルの鳴き声を真似、「バナナを拾って食え」と嘲る……。
昨年の9月には、テレビのスポーツ番組に出演したスペイン代理人協会の会長が「ビニシウスがゴールを決めてダンスをするのは、対戦相手へのリスペクトに欠ける行為だ」、「サルのような行動は慎むべきだ」、「そんなに踊りたければ、ブラジルのサンバ会場へ行け」などと放言。これには、ブラジル国内から「彼は完全なレイシストであり、なおかつブラジルの文化を見下している」という非難が湧きあがった。
人形を“絞首刑”にするかのような行為も
最も醜悪な行為が行なわれたのは、今年1月26日のレアル・マドリー対アトレティコ・マドリーのダービーマッチの前のこと。アトレティコのサポーターが、ビニシウスのユニフォームを着せた人形の首に縄をかけ、レアル・マドリーの練習場の前にある橋に吊るした。つまり、彼を“絞首刑”にしたのである。
その後も、バルセロナ、アトレティコ・マドリー、バリャドリード、マジョルカ、ベティス、オサスナなどとの対戦で地元サポーターによる人種差別行為があった。そして、これらが伏線となって5月21日のバレンシア戦での事態が起き、国際問題にまで発展した。
一方、レアル・マドリーのサポーターとチームメイトはビニシウスを全力でサポートする姿勢を示した。