デビュー前のパンチ練習は「ジャブとストレート」のみ

　逆に自ら働きかけていることもある。天心は、自分がボクシングに進出することで、他の格闘技と比べると何かと閉鎖的なイメージがあった世界の“変化”を示そうとしているのだ。

「帝拳ジムは歴史もあるのでみんな堅いイメージを持っているかもしれないけど、めちゃくちゃイケていますよ」

　練習中に私語などもってのほか。ラウンド間のインターバルには選手の息づかいしか聞こえない。天心は「そんな過去があったことは聞いているけど」と前置きしながら、2023年現在の帝拳ジムについて語り始めた。

「和気あいあいというわけではないけど、ちゃんと話をしながら集中してやっています。転向して本当によかった。（本田明彦）会長もいい方なので、期待に応えないといけないというか、ジムにしっかり恩返ししたいという思いが強い」

傷だらけの拳がトレーニングの充実ぶりを物語る　©Susumu Nagao

　ボクシングならではの技術の繊細さや奥深さについて聞くと、天心は「それは感じますね」と身を乗り出した。

「デビュー戦の前なんて、ほんとジャブとストレートしかやらせてくれなかったです。フックは使うな、と。あとは動き（フットワーク）ですね。それだけひたすらやれ、と指示されていました」

　他のテクニックを試したいという気持ちは？

「もちろん『フックやアッパーを打ちたい』という気持ちもあったけど、練習にないんですよ。実際にはまっすぐ（な軌道のパンチ）しかやっていない。それだけを半年ずっとやって、デビュー戦に臨みました」

　結果的に制限された中でやってよかったと思うところもある？

「ありますよ。みんな何でもかんでもやろうとしすぎなんですよ。教えてもらったら、すぐにできると勘違いする。そんなことはない。着実にひとつひとつやっていかないと、いくらテクニックがあっても、頭でっかちになるだけです。知識だけめっちゃあっても、それだけだといざというときに使えない。でも、しっかりとした基本が身についていれば、いざというときに応用も利く」

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