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ボクシングPRESSBACK NUMBER
那須川天心に寄せられた「ボクシングでは通用しない」の声…それでも強気の姿勢を貫く理由「そのうちみんな掌を返すと思うので」《単独インタビュー》
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph bySusumu Nagao
posted2023/06/08 11:06
今秋にプロボクサーとしての第2戦を予定している那須川天心。インタビューでは「人生をかける価値がある」とボクシングへの情熱を口にした
まだボクシングの「ボ」を学んだばかり
否定的な意見を助長させる要因のひとつとして、与那覇勇気とのデビュー戦が判定決着だったことが挙げられる。キックボクシング同様、ボクシングもKOを最高のフィニッシュと見なす傾向があるからだ。以前からこの競技を見続けている者からすれば決してそれだけが魅力ではないと断言できるが、誰の目にもKOがわかりやすいということは確かだろう。
天心も「倒したいといえば倒したかった」と本音を漏らす。
「けれど、やっぱりまだボクシングのコツを掴んだばかり。ボクシングの『ボ』を学んだという感じ。あとの4文字分はまだわからないので、いまはそれを掴んでいる最中です」
キックボクシングにもパンチによる攻撃はあるが、蹴りや掴みがあることで対戦相手との距離は明確に違ってくる。キックがある分だけ、距離が遠くなるのは言わずもがなだろう。
パンチの技術ひとつをとってみても、ボクシングとキックでは大きく異なる。天心も「違うところはありますね」と率直に話す。
「打ち方だったり、動き方だったり……。だから毎日が楽しいです」
その言葉を聞いて、ハッとするとともに疑問が湧いた。キックの頂を極めた者だからこそ、パンチの打ち方の矯正など、一から積み上げなければならないことは多かったはずだ。にもかかわらず、それが「楽しい」とはいったいどういうことだろうか。
「キックはもうマックスだったので」
やるべきことはやった、と?
「そうですね。対照的にボクシングは一からの新たなスタート。すごく不思議な感じです」
ボクシングに転向した時点で、天心はグリーンボーイとしての再スタートを決めた。もちろんキック時代に蓄えた知名度は残っているが、新たな競技を一からやり直すことに変わりはない。ファンにとっては天心を担当する粟生隆寛トレーナーの「これでよく倒せると思うようなパンチだった」という発言が気がかりかもしれないが、キックとボクシングの違いを肌で感じている当人は、周囲の意見に素直に応じている。