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「マンチェスターの強者」は今や“ユナイテッドではなくシティ”の証明…FA杯ダービー決勝生取材でペップから聞いたホンネの「エモーショナル」
posted2023/06/06 17:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
NurPhoto/Getty Images
記念すべきFAカップ決勝で、おそらくフットボール史上もっとも完成度の高いチームが、下馬表通りにトロフィーを手にした。
競技史上最古の大会のファイナルで初めて実現したマンチェスター・ダービー。過去141回の大会で、マンチェスター・ユナイテッドが12度、マンチェスター・シティが6度優勝しているが、頂点を懸けて対決するのは今回が初だった。
この優勝回数が示すように、フットボール発祥地イングランドで長く主役を演じてきたのは、赤のユナイテッドだ。けれど15年前にアブダビの国家ファンドがシティを買収してから、勢力図は徐々に水色に塗り替えられ、今季はその意味で大きなターニングポイントになろうとしている。
アーセナル、バイエルン、マドリーに続き引導を
過去にプレミアリーグ、FAカップ、チャンピオンズリーグの3冠を達成した唯一のチームは1999年のユナイテッドだけだが、それを同じ街の宿敵シティが成し遂げようとしている──今日の勝利でついに王手。2週間前にリーグ制覇を決めたシティを止めることは、自らの歴史的価値を守ろうと躍起になったユナイテッドでさえできなかった。
今のシティは、どんな相手にも手に負えない次元の異なるチームだ。プレミアリーグで首位を快走していたアーセナルを捕まえて追い抜き、チャンピオンズリーグではバイエルン・ミュンヘンとレアル・マドリーに快勝して決勝へ。そして今日はユナイテッドを2-1で下したが、内容はスコア以上に優勢だった。
つまり今季のシティは、アーセナル、バイエルン、マドリー、ユナイテッドという伝統的な勝者たちに引導を渡したわけだ。そして彼らの直近のパフォーマンスは、一片の隙もない完璧なものだった。
技術が際立ったシティのアカデミー出身者たち
正真正銘の国民行事を開催したのは、もちろんウェンブリー・スタジアムだ。ツインタワーで知られた前スタジアムがオープンしてから100周年を迎えた聖地には、キックオフの2、3時間ほど前から赤と水色のサポーターが続々と集結。この日は鉄道のストライキが予定されていたため、FAは300キロメートル以上南下する必要のあった両チームのファンに120台のバスを用意した。