海外サッカーPRESSBACK NUMBER
「僕はサッカー人生の敗北者」元・市船のスーパーエースにして韓国Kリーグで最も愛される日本人、石田雅俊が輝きを取り戻すまで
text by
姜亨起Kang Hyeong Gi
photograph byFA photos
posted2023/06/07 11:00
4月1日の大田−ソウル戦で、生涯初となる“1部リーグでの得点”を挙げて喜ぶ石田
「異国でひとり考える時間も増えて、どうにか自分がやらなければならない環境で。そばで手を差し伸べてくれる人なんて当然いない。本当の意味で孤独な戦いってところで、精神的に鍛えられた部分はあると思います」
石田は安山で24試合9ゴール1アシストを記録すると、翌2020年は当時2部の水原FCに移籍。27試合10ゴール4アシストでキャリア初の二桁得点に成功するとともに、チームの1部昇格に貢献した。
2021年は1部の江原FCに移籍するも、夏の移籍市場で現在所属する大田にレンタル。シーズン後半だけで15試合9ゴール1アシストをマークし、2部ではあるが日本人選手初のKリーグ年間ベストイレブンを受賞した。そして、完全移籍に切り替わった昨季も33試合10ゴール4アシストと活躍を続け、8年ぶりの1部昇格に貢献した。
病で見出した新たな感覚
28歳を迎える今シーズンを控え、石田は自身2度目のKリーグ1挑戦に並々ならぬ意欲を持っていた。2年前、江原で経験した1部で9試合無得点と不完全燃焼に終わり、その夏に大田へのレンタルで2部に逆戻りしたからだ。
「1部で戦うことへの思いは、開幕前まですごくありました。冬のキャンプでも『絶対に証明してやろう』という強い気持ちで練習に取り組んでいました。ただ……」
開幕直前、突然の扁桃炎でダウンし、一時は練習すら参加できなくなった石田。「もう死ぬんじゃないかってぐらいに体が追い込まれていた」と、サッカーどころではない状況に陥ったなかで、自身の心境に変化があった。
「開幕前には『シーズン15ゴール』みたいな大きな目標も立てていましたが、今は正直、その目標をすべて捨てました。まずは健康第一に怪我をせず、毎日サッカーできることに幸せを見出そうとしました」
石田がさらに続ける。
「目標と現実のギャップがストレスになって、その影響でパフォーマンスが低下する感覚がありました。今までは高い理想だけを追ってきたんですけど、そこに縛られて自分が苦しくなってしまうことが多いんですよね。だから、これまでずっと追い求めてきた大きな目標や高い理想は捨てないといけないって思ったんです。
この『捨て』という選択は『逃げ』って言われるかもしれませんが、僕自身としてはこれまで色々な経験をしてきて、本当にもがいてやってきた過去がある。だから、これからはもう肩の力を抜いて、純粋にサッカーを楽しむ方が良いかなと。『出来たらラッキー』ぐらいの感覚の方が、意外に脱力して良いプレーができるんですよね」