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王者に逆転され…その時、キャプテン立川は何を“強調”した? スピアーズ就任8年“ママチャリに乗る”ルディケHCも誇った「ブラザーフッド」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/05/22 17:03
リーグワン2022-23のプレーオフ決勝を制したクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。国立競技場には4万人以上が駆けつけた
「最初のオプションは自分がキャリーするか、それかパスを回すかだったんですが、外でウィングの木田(晴斗)が手を挙げているのが見えたんです」
デザインされたものではなく、咄嗟の判断だったという。
実は、私は記者席で「あっ」と声を上げていた。回しても十分にトライを取れる構図だったからだ。それでも、立川のキックパスは糸を引くように木田の胸に収まった。ワイルドナイツの選手が誰もいないスペースで、完璧なキックパスだった。
木田がトライラインを陥れて17対15。これが決勝点になった。
逆転されてなお、戦術を変えず、冷静だったことが、スピアーズを初優勝に導いたのである。
W杯でも重要視される「キッキング・ゲーム」
試合後、ワイルドナイツの顔、堀江翔太は淡々と試合を振り返りつつ、スピアーズの「こだわり」に兜を脱いだ。
「リーグワンが始まってから、ワイルドナイツがこれだけミスしたのは、ちょっと記憶にないです。スピアーズはキックを徹底してましたよね。コンテストキックって、獲得する確率はお互い50-50だと思うんですけど、スピアーズは連携することで、その確率を60-40、70-30へと高めることを考えてたんだと思います。そのこだわりは感じました」
立川はワイルドナイツ攻略のために、キッキング・ゲームを練りに練っていたことを明かした。
「田邉(淳)アタックコーチと一緒に、キックについてはいろいろなバリエーションを準備しました。まず、時間とスペースを意識する。ハイボールを上げてのコンテスト、エリアを取るキック、転がしてのグラバーキック、そしてスクラムハーフからのチップキックも用意しました。相手にどんなアタックが来るか分からないようにして、プレッシャーをかけようと」
大一番で、最後までキックを徹底した愚直さが、1位と2位の差を生んだように思う。
そしてこのキッキング・ゲームは、2023年ラグビー・ワールドカップにおいても重要な要素になる。
4年前に比べ、世界的にキッキング・ゲームの重要性が増しており、蹴り合いのなかで試合を優位に進めることが重視されている。7月から始まる日本代表のテストマッチシリーズで、それを意識して見ていくと、よりW杯が深く楽しめるようになると思う。